7 高速炉研究開発

高速炉サイクルの研究開発基盤の整備

図7-1 原子力イノベーションに必要な規格基準体系の提案

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図7-1 原子力イノベーションに必要な規格基準体系の提案

 


高速炉及びこれに対応した燃料サイクル(高速炉サイクル)は、世界のエネルギー需要への対応と地球環境の保全の両立のために期待される持続的エネルギー供給システムです。ウラン資源の大部分を利用可能とすることにより千年を超える長期にわたってエネルギーを供給できる技術であり、マイナーアクチノイドを核変換することで地層処分に供するガラス固化体の発熱や放射性毒性を大幅に低減することができるという特徴も持っています。

2018年12月に原子力関係閣僚会議にて決定された「戦略ロードマップ」では我が国における今後10年程度の高速炉の開発作業が特定され、原子力機構には、原子力イノベーションのもと民間が取り組む多様な技術開発に対応できるニーズ対応型の研究開発基盤を維持すること及び安全基準等の我が国の技術を国際標準化する取組みを実施すること等が求められています。そこで、原子力機構では、これに則り研究開発方針を策定し、高速炉・新型炉研究開発部門では、国内外の最先端の技術を取り入れた先進的設計評価・支援手法、安全性向上技術、放射性廃棄物の減容化や高速炉の経済性向上に向けた技術、燃料製造・再処理等の燃料サイクル技術の開発、安全基準及び規格基準の開発と標準化等に取り組んでいます。安全基準及び規格基準の開発と標準化においては、多様な概念が想定される新型炉の特徴を最大限に生かす設計を実現するための規格体系を構築することを目的として、図7-1に示すようにリスク情報を活用することにより安全基準と構造の規格・基準をシームレスに連携させる体系を提案し、これを実現するための技術開発を進めるとともに国内外の学協会等で標準化活動に取り組んでいるところです。

本章ではこれらの研究開発の中から最近の成果をいくつかご紹介します。「炉心上部機構の国内製作技術確立に向けて(トピックス7-1)」は高速炉の設計研究の一環として日仏高速炉協力を行う中で、タンク型炉の炉心上部機構の製作性を3D-CADを用いて検討し、国内技術によるタンク型炉の炉心上部機構の製作技術成立性に見通しを得るとともに今後の高速炉実用化に向けた重要な知見を獲得したものです。「自然対流により炉心の崩壊熱を確実に除去(トピックス7-2)」及び「高速炉の炉心燃料集合体の解析評価手法の構築(トピックス7-3)」は熱流動解析に係るものです。トピックス7-2は、ナトリウム冷却高速炉の崩壊熱除去システムの成立性をこれまでにない高精度の試験データを取得することによって得られた結果を紹介しています。トピックス7-3は、ナトリウム冷却高速炉の安全性を高めるために設計検討されている内部ダクトを有する燃料集合体の成立性を、サブチャンネル解析コードの機能を拡張することによって示した結果を示します。「超高温条件に耐える燃料被覆管の開発を目指して(トピックス7-4)」及び「燃焼するナトリウムミストで水素が着火する仕組みを探る(トピックス7-5)」は、ナトリウム冷却高速炉の安全性評価に係る成果です。トピックス7-4では、ナトリウム冷却高速炉用燃料被覆管として開発を進めてきた酸化物分散強化型鋼の1000 ℃における強度が従来の耐熱オーステナイト鋼に比べて格段に優れ、超高温条件での安全性が高い画期的な被覆管であることを明らかにすることができました。トピックス7-5では、水素ガスが着火する過程を高感度で高速度の撮影手法で可視化する燃焼実験を行い、ナトリウム混在水素噴流の着火は着火したナトリウムミストの周囲で水素が局在的に着火する現象であることを確認しました。