7-3 高速炉の炉心燃料集合体の解析評価手法の構築

−内部ダクトを有する燃料集合体(FAIDUS)内の熱流動挙動を予測−

図7-8 内部ダクトを有する燃料集合体(FAIDUS)のイメージ

図7-8 内部ダクトを有する燃料集合体(FAIDUS)のイメージ

燃料破損事故が生じた際、内部ダクトを通して溶融燃料を速やかに炉心の外に排出することで再臨界を排除します。

 

表7-1 燃料集合体の主な仕様と境界条件

大型SFRの仕様(暫定)を参照し、定格運転時の高流量条件及び崩壊熱除去時の低流量条件を設定しました。

表7-1 燃料集合体の主な仕様と境界条件

 

図7-9 FAIDUS内の熱流動解析結果(発熱領域上端)

図7-9 FAIDUS内の熱流動解析結果(発熱領域上端)

らせん状に巻かれたワイヤースペーサーによって水平方向流れが生じ、内側の高温ナトリウムが内部ダクトの角部(300°)に流入するため、高・低流量条件ともに角部付近で局所的な温度上昇が見られます。

 


現在、ナトリウム冷却高速炉(SFR)の安全性を強化するため、図7-8に示すように過酷事故時に炉心部で溶融した燃料を、速やかに炉心の外に排出するための流路(内部ダクト)を有する燃料集合体(FAIDUS)の採用が検討されています。SFRの燃料集合体では、ナトリウム流路を確保するため、ワイヤースペーサーがらせん状に巻かれている燃料ピンが、六角形状のラッパー管の中に格納されています(図7-8中央及び右側)。FAIDUSでは、内部ダクトの設置により燃料ピンの配置が非対称となることから、燃料集合体内部の温度分布を把握する必要があります。これまでに、燃料集合体内の熱流動評価を目的とした設計評価ツールとして、燃料ピンあるいはラッパー管で囲まれる狭いナトリウム流路(サブチャンネル)を一つの計算単位とし、設計検討で行われる大型の燃料集合体を対象としたパラメトリック解析を効率的に実施可能なサブチャンネル解析コード(ASFRE)の整備を進めてきました。また、内部ダクトのない燃料集合体体系での水試験やナトリウム試験のデータと比較し、解析結果の妥当性を確認してきました。

本研究では、このASFREに内部ダクトを取り扱えるサブチャンネル形状を追加して機能拡張を図り、表7-1に示す代表的な二つの流量条件におけるFAIDUS体系での熱流動解析を行いました。図7-9に解析結果の一例として、ナトリウムの水平方向温度分布を示します。図7-9(a)の対角線上の温度分布において、低流量条件では高温となる中心領域の通過流量割合が浮力により増加する一方で周辺領域では減少するため、高流量条件に比べて中心と周辺の領域の温度差が縮小する傾向となります。また、内部ダクトが存在することによって、高・低流量条件ともに温度分布に非対称性が現れています。図7-9(b)の集合体壁に沿ったサブチャンネルの周方向分布において、内部ダクトの角部(300°付近)以外の領域では、従来の内部ダクトのない燃料集合体と同様に、ワイヤースペーサーとラッパー管の位置関係によって60°ごとの周期性が現れますが、顕著な温度変化は見られません。一方で内部ダクト近傍では、ラッパー管とワイヤースペーサーとの位置関係が異なるため、周期性が崩れ温度分布に差が現れました。このように、サブチャンネル解析コードであるASFREを用いて、内部ダクトによる温度分布の局所的な変化を評価できる見通しが得られました。

なお現状では、FAIDUS内の熱流動に関する実験データが存在しないため、今後、実験の代替として詳細な三次元CFD解析との比較により、集合体内の熱流動挙動に対する評価精度を把握し、FAIDUSを含めた燃料集合体の設計評価ツールとして充実させていきます。

(菊地 紀宏)