8-7 岩石の化学組成から最近の断層運動の痕跡を識別

−断層運動に起因する元素の移動のしくみを解明−

図8-16 (a)上載地層がある場合と(b)ない場合での断層の活動性の識別

図8-16 (a)上載地層がある場合と(b)ない場合での断層の活動性の識別

断層を覆う上載地層がない場合、活断層かどうかを識別することは容易ではありません。

 

図8-17 (a)活断層と(b)非活断層の断層粘土におけるマンガン(Mn)と鉄(Fe)

図8-17 (a)活断層と(b)非活断層の断層粘土におけるマンガン(Mn)と鉄(Fe)の元素分布

左の写真は分析範囲の岩石研磨片、中央及び右の画像は走査型X線分析顕微鏡による元素マッピング結果を示しています。活断層では、非活断層とは異なり、MnやFeが断層粘土に濃集していることが分かります。

 


地震を引き起こす断層には、千年〜数万年程度の周期で繰り返し活動し、数十万年前以降に活動履歴のある活断層と、数十万年以上前から活動を停止している古い断層(非活断層)があることが知られています。このような断層の活動性を把握することは、地層処分のサイト設計・安全評価はもとより、広く地震防災を考える上で非常に重要です。一般に、活断層であるかどうかは、岩盤を被覆する最近形成された堆積物(上載地層)にずれがあるかどうかに基づいて判断されます。しかし、断層の延長上にそのような上載地層がない場合や、地下坑道の掘削中に新たに出現した断層の評価に対しては、上載地層のずれに基づく調査ができないため、活断層を識別するための新たな調査手法の構築が課題となっていました(図8-16)。

断層沿いには一般に、岩盤が断層運動により破壊されてできる破砕帯が認められます。破砕帯では、断層運動による破壊の繰り返しで鉱物粒子が細粒化し、割れ目に沿って流入する水とこの細粒化した鉱物が反応して、変質鉱物として「断層粘土」がしばしば形成されています。本研究では、過去の詳細な地質調査に基づき活断層及び非活断層であることが分かっている断層を対象として、X線回折分析や蛍光X線分析などにより断層粘土の鉱物組成や化学組成を詳細に調べ、両者の違いを検討しました。その結果、断層粘土の断面の元素マッピングにより、マンガン(Mn)や鉄(Fe)といった一部の元素の断層粘土への濃集の様子が、活断層と非活断層とで大きく異なることが分かりました(図8-17)。

活断層の断層粘土で濃集しているこれらの元素は、水に不溶の酸化物を形成します。断層粘土は、細粒化した鉱物で詰まっているため、一般的には水をほとんど通さないことで知られています。しかし、活断層の場合は、断層運動に伴い新たな割れ目が形成されることにより、断層粘土に沿って地下から水が上昇してきます。地下深部の水は還元的で、MnやFeなどは水に溶けた状態ですが、これらが断層運動に伴い上昇し、地表付近の酸素に富む地下水と混合して酸化還元反応が起こった結果、水に不溶の酸化物が断層粘土で沈殿した可能性があると考えました。

一方、非活断層の断層粘土は、水をほとんど通さないままなので、これらの元素が濃集することがありません。このように、断層粘土の化学組成に基づく検討により、活断層と非活断層とが識別できる見通しが得られました。今後さらに分析事例を増やすとともに、元素の移動メカニズムをより詳細に検討することにより、上載地層がない場合の断層の活動性評価手法として確立していきたいと考えています。

(丹羽 正和)