9-1 デブリ空冷模擬実験のマルチスケール熱流動解析

−格子ボルツマン法向け熱流動解析コードの開発−

図9-2 自然対流実験装置

拡大図(281 kB)

図9-2 自然対流実験装置

直方体ケース(580×580×795 mm)の底面に円盤型のヒーターを設置し、実験装置中心の支柱上に配置された温度計にて既往研究を参考に定常状態の温度を測定しました。

 

図9-3 実験装置中心部での温度分布

図9-3 実験装置中心部での温度分布

CityLBM(均一格子)とCityLBM-AMR(壁面部分に高解像度格子)を実験値及びJUPITERの解析値と比較。加熱面近傍の温度の急減な変化を捉えるとともに実験値を再現する結果が得られました。

 


東京電力福島第一原子力発電所の廃炉を安全に進めるためには、炉内の温度分布を事前に予測するための熱流動解析が求められています。炉内の熱流動解析では、数mmのデブリから、数mの炉内構造物を捉えたマルチスケール解析が必要です。CityLBMは格子ボルツマン法(LBM)に基づく数値流体解析手法であり、高速に流れを解くことが可能です。これに、流れのスケールに応じて格子解像度を変えることが可能な適合細分化格子(AMR)法を適用することで、効率的なマルチスケールの流体解析が実現可能となります。

しかしながら、これを熱流動解析に拡張した従来のLBMによる定式化では多くの計算メモリが必要となるため、大規模問題への適用が困難となる課題がありました。一方で、温度の時間発展を差分法に基づいて離散化する手法では、三次元解析においてメモリ使用量をLBMの1/7に削減できます。差分法による定式化では、計算安定性の悪化から反復計算を用いた陰的な時間発展が必要となり計算時間が増大する問題がありますが、本研究が対象としているデブリの空冷解析では、温度を陽的に時間発展させることが可能です。そのことから、メモリ使用量と計算時間の両面から差分法とLBMを組み合わせたハイブリッドモデルが有効だと着想しました。この新たな熱流動解析手法では、差分法に基づく温度の計算にLBMにより求められた速度を組み合わせることで温度の時間発展を計算します。温度がLBMに与える影響はブジネスク近似を用いて外力項として評価しました。これにより、従来のLBMや原子力機構の熱流動技術開発グループ(熱流動Gr)が多相流体の熱流動解析用に開発したJUPITERと同等な熱流動場の解析を実現しました。

CityLBMの検証計算として、熱流動Grのデブリ空冷を模擬した自然対流実験(図9-2)に対する解析を実施しました。実験体系として、ケースの底面にヒーターを設置し、準定常状態となるまで10分間の加熱を行いました。実験条件でのレイリー数は約2.0×109であり、非定常な熱流動現象となるため、時間平均した温度の鉛直分布を比較しました(図9-3)。解析結果より、一様格子とAMR法を適用したCityLBMにおいて、JUPITERの解析値と実験値を5 K以内の精度で再現することに成功しました。計算速度の比較として、原子力機構のスーパーコンピュータICEXの18ノード(36 CPU)を用いたJUPITERに対して、GPUスーパーコンピュータABCIの1ノード(4 GPU)を用いたCityLBM-AMRは6.7倍の計算速度を実現しました。以上の研究開発により、100ノードの計算機台数にて、数m領域の1時間の熱流動解析が24時間以内に実施可能となり、実スケールのデブリの空冷解析へと適用できる見通しが立てられました。

本研究成果の一部は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(課題番号:jh180041-NAH「格子ボルツマン法による都市街区を対象とした物質拡散シミュレーション」、jh190049-NAH「アンサンブル計算に基づく汚染物質拡散予測の開発」)の支援の下で得られた成果です。

(小野寺 直幸)

 

*Uesawa, S. et al., Development of Numerical Simulation Method to Evaluate Heat Transfer Performance of Air Around Fuel Debris, 2: Validation of JUPITER for Free Convection Heat Transfer, Proceedings of 25th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE-25), Shanghai, China, 2017, 7p.



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