9-2 計算科学による超伝導中性子顕微鏡の設計開発

−中性子検出器内の全ての放射線をシミュレーションし動作を予測する−

図9-4 超伝導中性子顕微鏡CB-KIDのモデリングとPHITSを用いた放射線と実際の撮像イメージングのシミュレーション結果

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図9-4 超伝導中性子顕微鏡CB-KIDのモデリングとPHITSを用いた放射線と実際の撮像イメージングのシミュレーション結果

(a)10Bのドット列からなるテスト試料と超伝導中性子顕微鏡CB-KIDモデルの模式図:CB-KIDでは異なる物質の層が重なり、10B転換層で入射中性子が核反応を起こし、発生した4Heと7Liを超伝導細線部分で検出します。(b)計算した中性子の飛跡:飛跡の色は中性子フルエンスを表しています。フルエンスは単位面積当たりの中性子線の数となります。集束中性子ビーム(中性子フルエンスが高いため水平方向に走る赤い線に集約しました)がCB-KID検出器中央に垂直に入射した場合をシミュレーションで計算しました。(c)シミュレーションにより得られた中性子透過像:テスト試料(a:左図)に対し、一様な中性子ビームが入射した際にCB-KIDで得られる中性子透過像がシミュレーションにより得られます。10Bドット列を通過できる中性子量は少なくなるため、図のように暗像となります。

 


中性子は物質の奥深くまで透過することから、中性子ビームを利用すると物質内部の画像化(イメージング)が可能となります。現在、高強度中性子ビームが利用できる施設は限られていますが、新しい加速器施設が建設または計画されており、高強度中性子ビームを最大限活用する高解像度の中性子顕微鏡技術の開発に期待が高まっています。

現在、日本で開発されている中性子顕微鏡技術の一つとして、超伝導デバイスを用いた電流バイアス運動インダクタンス検出器(Current-Biased Kinetic Inductance Detector:CB-KID)があります。これは従来の中性子イメージング技術の性能を顕微鏡レベルまで向上させることを可能とする革新的な検出器技術と考えられています。CB-KIDでは、ホウ素10(10B)の薄膜(転換層)を用い、入射中性子との核反応によって、ヘリウム(4He)とリチウム(7Li)粒子に変換します。超伝導デバイスを用いることで、これらの粒子一個のレベルで、その位置まで含め検出可能となります。

しかし、世界の中性子ビーム施設の数は限られており、CB-KID設計のための実験を、必ずしも十分に行うことができません。そこで、システム計算科学センターは、大阪府立大学及びJ-PARCと連携し設計支援のための計算モデルを開発しました。計算モデルでは、粒子・重イオン輸送計算コードPHITSを用い、仮想的に設計したCB-KIDのモデル構造(図9-4(a))内を飛行する中性子と発生する全ての核反応過程をシミュレーションしました。図9-4(b)は収束中性子ビームが入射した場合のCB-KID内での中性子の飛跡を表しています。シミュレーションでは、中性子及びその核変換で発生した4Heと7Li粒子を追跡し、それらの最大侵入距離(飛程)を評価します。その結果、10Bの薄膜(転換層)内で生成される4Heと7Liだけが測定可能な信号を与えることが分かり、さらにテスト試料内で発生する4Heと7Liや、核反応で発生するガンマ線は検出器にて得られる透過像にほとんど影響を与えないことも、初めて確認できました。すなわち、図9-4(a)のようなCB-KIDは、顕微鏡内に入射した中性子のみに感度を示し、中性子イメージングに適した条件を満たしています。

次に、テスト試料の中性子透過像をシミュレーションした結果を図9-4(c)に示します。実際に、テスト試料(直径6 μmの微小な10Bのドット列)とほぼ同じ像が得られていることが分かります。この結果から、10 μm以下の微小な試験サンプルであってもCB-KID中性子顕微鏡を用いることで十分に解像できることが分かりました。今後は、上記設計を変更し、計算による試行実験を重ね、解像度をさらに高くするための改良について検討していく予定です。このような仮想実験により、コストと労力が大幅に削減可能となり、研究が加速されると期待できます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A)(No.16H02450)「デュアル電流バイアス運動インダクタンス検出器による中性子検出効率の改善」の助成を受けたものです。

(Alex Malins)



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