2-5 統計的機械学習で原子炉圧力容器の脆化を予測する

ー長期運転時の健全性評価のさらなる信頼性向上を目指してー

図2-15 原子炉圧力容器の構造健全性評価の概要

拡大図 (73kB)

図2-15 原子炉圧力容器の構造健全性評価の概要

中性子照射によって原子炉圧力容器鋼の破壊に対する抵抗力が低下し、脆性破壊する温度が高温側に移行(脆化)します。これを予測した上で抵抗力が、緊急炉心冷却時等による温度低下によって生じる破壊力を上回ることを確認します。

 

図2-16 ノンパラメトリックベイズ(BNP)法による解析

拡大図 (98kB)

図2-16 ノンパラメトリックベイズ(BNP)法による解析

(a)得られる確率分布の模式図 : ここでは可視化のため、中性子照射量を変数として脆化量の確率分布を示していますが、それ以外にも多くの因子を変数として取り扱うことができます。そして、照射量等の因子について任意の値を指定すると、それに対応した脆化量の確率分布が得られます。
(b)脆化予測の精度向上 : 計算値と実測値の差(残差)の標準偏差を示しており、値が小さいほど予測性が優れることに対応します。
(c)脆化量の評価結果 : 我が国の現行脆化予測法のマージンが概ね保守的に設定されていることを示しています。

 


安全上重要な機器である原子炉圧力容器(RPV)は、運転期間中に破壊しないことが求められています。RPVの構造健全性評価では、図2-15に示すように、RPVの構造材料(RPV鋼)の抵抗力(破壊靭性値)が、原子炉配管が破断した際に注入される緊急炉心冷却水によりRPV内表面が急冷される際等で生じる破壊力(応力拡大係数)を上回ることを確認します。RPV鋼は炉心からの中性子照射を受けると抵抗力が低下し、脆性破壊する温度が高温側へ移行する(照射脆化する)ことが知られています。このため、長期運転時の脆化の程度(脆化量)を把握することが安全上重要になっています。

脆化量は照射条件や化学成分に依存することが知られており、我が国では中性子照射による微細組織変化の分析結果等を踏まえた脆化予測法が整備されています。長期運転時のRPVの健全性評価のさらなる信頼性向上のためには、脆化量をより精度良く予測する手法の整備が不可欠です。また、現行の構造健全性評価では、脆化量の予測値に予測誤差等を考慮して一定のマージンを加えていますが、そのマージンが適切に設定されていることも重要です。

私たちは、脆化への影響因子を分析し、照射条件や化学成分に応じた脆化予測の不確かさを評価するため、既往知見に捉われない機械学習とベイズ統計に基づくノンパラメトリックベイズ(BNP)法を世界で初めて脆化予測に適用しました。BNP法は、多数の因子が複雑に影響し合うデータを統計的類似性に基づき自動的に分類し、図2-16(a)に示すようにデータ全体の確率分布を多変量の確率分布の重合せで求めることができる手法で、データの数やばらつきに応じた計算値の不確かさを定量的に評価することができます。

この手法を用いて、加圧水型原子炉の監視試験データ(監視試験は、脆化量の把握のため、RPVに装荷されたRPVと同じ鋼材の試験片を定期的に取り出して実施されるものです)を対象に解析を行いました。その結果、図2-16(b)に示すように、従来、脆化への影響が大きいとされている銅(Cu)やニッケル(Ni)含有量に加え、ケイ素(Si)含有量を考慮することで脆化予測の精度が向上することを明らかにしました。さらに、中性子照射量とCu、Ni、Si含有量を考慮したBNP法による脆化量の計算結果と実測値、我が国の現行脆化予測法で考慮されるマージンの範囲(破線)を比較し、BNP法による計算結果は、不確かさ(エラーバー)を含めて概ね破線の範囲内に分布することから、同マージンは適切に設定されていることを確認しました(図2-16(c))。

今後は、BNP法に基づく不確かさ評価を、現行の構造健全性評価における安全裕度の定量評価や、我が国で実用化に向けた研究開発が進められている確率論的手法に基づく構造健全性評価に活用していきます。

本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成28~30年度原子力施設等防災対策等委託費(軽水炉照射材料健全性評価研究)事業」の成果の一部です。

(髙見澤 悠)




| | | | |