図2-1 リスク評価とその活用を軸とする安全研究・防災支援の取組み
図2-2 高圧熱流動実験ループ(HIDRA)
図2-3 原子炉安全性研究炉(NSRR)
安全研究・防災支援部門では、原子力安全の評価等に係る原子力安全規制行政への技術的支援、並びに、解析や試験、計測技術等に係る長期的視点からの先導的・先進的な原子力安全及び防災に関する研究に取り組み、規制・基準類の整備等、「合理的に達成できる安全の最高水準を目指した継続的改善の追求」に貢献しています。
安全研究分野では、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故以降、その教訓や課題を踏まえ、設計基準事象(原子炉施設の安全性を評価するために想定する事象)への対応が中心であった研究構成の見直しを進めてきました。現在は、原子力利用に伴うリスクの評価と不確かさの低減のため、図2-1に示すように、シビアアクシデント(SA)の発生防止と評価に関する研究、外的事象の影響評価手法に関する研究、緊急事態への準備と対応に関する研究、1F事故に係わる放射線影響や放射性廃棄物管理に関する研究を重点的に進めています。
原子力機構の安全研究の特色として、事故等で想定される条件を適切に模擬することのできる、大型実験施設の活用があります。図2-2に示す高圧熱流動実験ループ(HIDRA)はその一つで、新規制基準で要求される設計基準を超える過酷な熱水力条件の炉心熱伝達実験を実施し、炉心冷却性能の評価手法を高度化することを目指しています。また、図2-3に示す原子炉安全性研究炉(NSRR)を用いて、反応度事故(設計基準事象の一つ)時の燃料の破損限界や燃料破損が原子炉施設に及ぼす影響等に着目した研究を実施しています。この他、安全上重要な機器の材料劣化・構造健全性に関する研究、保障措置のための極微量核物質分析技術に関する研究なども実施しています。さらに、OECD/NEA国際共同プロジェクトとして、原子力機構が運営機関を務める1F事故情報の分析・事故解析(ARC-F)等を進めています。
原子力防災分野では、原子力災害発生時の屋内退避の被ばく低減効果等、対策の実効性向上に役立つ研究を進めています。また、1F事故後の周辺環境における放射性物質の分布について異なる手法で取得した空間線量率データを統合化する手法の開発や、1F沿岸海域における海底土の放射性物質分布調査を進めています。さらに、緊急時の迅速な線量率評価に役立つバックグラウンドモニタリングを、全国の原子力発電所周辺で実施しています。
本章では、安全研究・防災支援部門の最近の研究成果から、原子力災害時に速く正確な内部被ばく線量の把握に役立つ測定器開発(トピックス2-1)やモニタリングポストが汚染された場合の影響推定(トピックス2-2)、原子炉建屋への飛翔体衝突影響の評価(トピックス2-3)、再処理施設の重大事故時にガス状ルテニウム化合物の放出抑制が生じる条件の解明(トピックス2-4)、最新の統計的機械学習による照射脆化予測(トピックス2-5)、放射性核種の地下環境での移行評価 (トピックス2-6)、ウラン精製年代分析技術の開発(トピックス2-7)について、また福島研究開発部門の成果から、原子力災害対応用ロボット操作員の養成に向けた取組み(トピックス2-8)を紹介します。
なお、安全研究・防災支援部門が取り組んできた1F事故対応については、1F燃料デブリのより安全な取扱いに向けた臨界性評価実験の最適化(トピックス1-4)、事故後の空間放射線量率の減少傾向の分析(トピックス1-12)に関する成果を第1章に記載しています。