2-8 人に代わって事故現場へ入るロボットを操る

ー原子力災害対応用ロボット操作員の養成ー

表2-3 原子力機構緊急事態支援組織が保有する各種遠隔機材

原子力機構の研究用原子炉等の原子力施設において、放射性物質による汚染で作業員が立ち入ることのできない事故が起きた場合に備えて、以下の遠隔機材を保有しており、操作員の訓練を行っています。また、これら保有機材の機能向上のための改良や老朽化した機材の更新も行っています。

表2-3 原子力機構緊急事態支援組織が保有する各種遠隔機材

 

図2-21 中級訓練における目視外操作訓練の様子

図2-21 中級訓練における目視外操作訓練の様子

事故時は、ロボットに取り付けられたカメラ映像のみで正確にロボットを操作しなければなりません。カメラ映像は二次元で距離感が掴みにくいため、目視外操作は目視操作と比べて格段に難しくなります。このため、操作訓練を定期的に実施しています。

 


原子力機構は、所有する原子力施設が事故を起こしたときのための緊急事態支援組織(支援組織)を楢葉遠隔技術開発センターに設置しています。緊急事態支援の対象となる施設は、原子力科学研究所研究用原子炉JRR-3、核燃料サイクル工学研究所「東海再処理施設」、大洗研究所材料試験研究炉JMTR、同高温工学試験研究炉HTTR、同高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉「もんじゅ」及び新型転換炉原型炉「ふげん」です。支援組織では、これらの対象施設において放射性物質による汚染で作業員が立ち入ることができない事故が起きた場合に備え、事故現場に投入し内部状況の調査・測定を行うロボットや、上空から撮影・測定等を行う小型無人航空機を保有しており、これら遠隔機材の保守管理、機能向上のための改良を行っています。また、事故現場で遠隔機材を操作する操作員の教育・訓練も、2017年から継続的に行っています。操作員メンバーは上記の緊急時支援対象各施設の職員で構成されており、楢葉遠隔技術開発センターの中の訓練設備を用いて、操作技能を向上させるためのトレーニングを行っています。これを遠隔機材操作員の操作訓練と呼びます。

操作訓練で使用する遠隔機材は、偵察用ロボット、作業用ロボット、小型無人ヘリの3種類があります(表2-3)。偵察用ロボットは、比較的小型のロボットで、事故現場の撮影、放射線測定を行います。作業用ロボットは、人間の手の様なマニプレータを備えており、偵察用ロボットが乗り越えられない障害物の撤去や、必要に応じて弁の操作等を行います。小型無人ヘリは、いわゆるドローンで、事故現場の上空を飛行しながら施設外観の確認を行います。

操作訓練は、初級から始まり、中級、上級訓練へと段階を踏んで内容が高度化していきます。各職員の上達度によっては追加訓練も行っており、遠隔機材の事前知識がない職員であっても一定期間内で確実に操作技能が習得できるプログラムになっています。本稿では、初級及び中級訓練の内容を述べます。

初級訓練では、導入教育として関係法令やロボットの仕様を座学で学んだ後、訓練用実機で操作の基本手順を学びます。偵察用ロボットや作業用ロボットなど地面を走るものについては、目視での基本走行と障害物等の乗り越え、狭隘部の走行、マニプレータにより物を掴む操作技能を習得し、小型無人ヘリでは、有線式ドローンを用いて離着陸及びホバリング操作技能を中心に習得します。

中級訓練は、初級訓練で習得した基礎知識と基本操作技能を踏まえ、より事故時の状況に即した応用操作の習得を目的としています。偵察用ロボット及び作業用ロボットについては、ロボットのカメラを介した目視外操作(図2-21)、小型無人ヘリについては、無線式ドローンを用いて指定したポイントを飛行通過する操作の技能を習得します。操作員が操作訓練を行える機会は年間1〜2回程度と少ないため、毎回、訓練の最初に前回までのおさらいをする反復教育を行うなど、知識定着の工夫をしています。

2021年4月現在、原子力機構には上記の教育・訓練を受けた操作員が総計24名おり、操作技能を維持するため、定期的な操作訓練を行い、万が一の事故に備えています。また、訓練内容や訓練設備についても、各対象施設の現場状況に即した訓練を行うため、適宜改善を図っています。

(千葉 悠介)