図1-8 STACY更新炉の概念図と最適化パラメータ
図1-9 炉心構成の最適化結果の例
東京電力福島第一原子力発電所事故では、核燃料が溶融し、鉄やコンクリートなどの構造材を含んだ燃料デブリが生じていると考えられています。燃料デブリの取り出しとその後の管理に必要な臨界安全の観点から、その臨界特性をコンピュータ解析により評価する研究が進められています。解析評価は臨界実験で確認する必要がありますが、燃料デブリの臨界実験による検証データがありません。そこで私たちは、組成の明らかな模擬燃料デブリと定常臨界実験装置STACY更新炉でその臨界特性を把握することを目指しています。
燃料デブリにコンクリートが含まれる場合、コンクリートそのものが水分を含んでいることから、周囲の水とともに中性子減速に寄与する一方で、水以外のコンクリートの成分であるMg、Si、Al、Caなどが臨界特性に与える影響も評価する必要があります。事前の摂動計算の結果、Siの中性子捕獲反応が臨界特性に与える影響が顕著だったため、これを効率的に観測できるような炉心構成が必要だと分かりました。そのためには模擬燃料デブリを出来るだけ多く用いることも考えられますが、組成によっては調製が技術的に困難であること、実験後に大量の廃棄物が生じることなどの理由から、UO2燃料棒とコンクリート棒の組合せによって燃料デブリを模擬することにより、Siの感度が少量のコンクリート試料から最大限に得られる炉心構成を構築することを目指しました。
図1-8に示すように、燃料棒は炉心タンク内に設置された格子板により所定の間隔で配列されます。この格子間隔を変えることで、燃料デブリが置かれている様々な中性子減速条件を模擬することが可能です。最適化においては、燃料棒本数を減らすことができる2領域炉心構成を考案し、中央の領域にUO2燃料棒とコンクリート棒を、その外側にはUO2燃料のみを入れ、双方の格子間隔(P1、P2)と領域の大きさ(D1、D2)、コンクリート棒の割合(w)をパラメータとしました。このうち燃料デブリの中性子減速条件であるP1を臨界性が大きくなるような任意の値とした場合に、Siの中性子捕獲反応の感度が最大となるようにP2、D1、D2、wを最適化しました。図1-9に炉心構成最適化の結果の例を示します。最適化後の炉心構成は、大量の模擬燃料デブリを調製して装荷した最も理想的な場合に比べ、全体のSi感度は下がるものの、試料1本当たりで得られる感度は2.74倍となり、現実的に構築可能な炉心構成が得られました。本試験データは、Siを含むコンクリート成分が臨界特性に与える効果の把握に大きく寄与し、廃炉作業時の燃料デブリの取扱いにおける臨界評価手法の整備に役立つことが期待されます。
本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「東京電力福島第一原子力発電所燃料デブリの臨界評価手法の整備」事業の成果の一部です。
(郡司 智)