図1-6 (a)模擬MCCI生成物イメージ及び外観写真(b)試料切断面金相写真(c)溶融部上方電子顕微鏡写真(d)溶融部下方電子顕微鏡写真
図1-7 MCCI生成物の階層構造のイメージ
東京電力福島第一原子力発電所事故では、核燃料や炉心構造材等から構成される溶融物が格納容器床面に流下し、コンクリートと高温で反応(Molten Core-Concrete Interaction : MCCI)したと推測されます。MCCI生成物は事故後これまでに冷却水と接触し続け、表面から水溶性の放射性核種が少しずつ溶け出し、建屋内に徐々に拡散している可能性が考えられます。MCCI生成物の構造や、放射性核種の凝集位置を把握することは、建屋内での放射性核種の移行挙動を知るために重要です。そこで本研究では、核分裂生成物(FP)の中でも高い放射能を持つSrとBaに着目し、非放射性のSrとBaを含む模擬MCCI生成物を高温で作製することで、MCCI生成物の構造とSr及びBaの凝集位置を実験により調べました。
図1-6(a)に模擬MCCI生成物のイメージと外観写真を示します。ペレット状に成型した炉心成分の模擬混合物(U0.5Zr0.5O2、ZrH2、ステンレス鋼、B4C、Mo-Ru-Rh-Pd系合金、BaCO3、SrCO3)をコンクリート片上に置き、集光加熱装置でペレット上面に集光し加熱することで、溶融した炉心成分とコンクリートが高温で反応するMCCIを模擬しました。
冷却後の試料を鉛直方向に切断し、断面を光学顕微鏡で観察した結果を図1-6(b)に示します。試料上部の灰色の領域では、炉心成分がコンクリート成分とともに溶融・固化しています。その下部のコンクリート部分は溶融していませんが、熱で劣化し脆くなっています。溶融部の上方及び下方の電子顕微鏡写真を図1-6(c)及び(d)に示します。主要な生成相は、暗く見えるケイ酸ガラスと明るく見える(U,Zr)O2粒子です。元素分析の結果、ケイ酸ガラス相にはSr、Baがそれぞれ平均3at%、2at%の比率で含まれ、(U,Zr)O2粒子にはSrとBaは含まれないことが分かりました。今回の実験系について熱力学的な解析を行ったところ、Sr、Baは(U,Zr)O2よりケイ酸ガラス中に移行するほうが安定であることが分かりました。
上方では(U,Zr)O2が2〜3 µmの微細粒子としてガラス中に析出していますが、下方では10〜20 µmの比較的大きな粒子として析出し、また領域に占める割合も多くなっています。これは、比重の大きい(U,Zr)O2粒子が溶融凝固の過程で下方に沈みやすく、その結果Sr、Baを含むケイ酸ガラス相の多くが上部で固化したと考えられます。
今回の結果から予測されるMCCI生成物の模式図を図1-7に示します。現状の事故シナリオの見解として、1F格納容器底部に堆積した実際の燃料デブリ表面には、水で急速に固まった、コンクリート成分を含まないクラストが形成されたと予想されています。一般的に急冷されたクラストには亀裂や気泡(空洞)ができやすく、SrとBaを含む上方のケイ酸ガラス層に冷却水が接触しやすい状態であると考えられます。今後はケイ酸ガラス中に含まれるSrとBaの溶出挙動について検討し、建屋内の放射性核種の移行挙動の把握に役立てていきたいと考えています。
(須藤 彩子)