1-5 土壌に固着したセシウムの除去方法を開発

ー汚染した土壌の処理に備えてー

図1-10 土壌からCsを除去するための水熱処理試験装置

図1-10 土壌からCsを除去するための水熱処理試験装置

土壌粒子を入れた反応槽を恒温槽に設置し、Csを脱離するための水溶液を連続的に流通させる試験を行いました。Csは、装置から排出される水溶液に回収されます。

 

図1-11 汚染土壌から放射性Csを回収する実験の結果

図1-11 汚染土壌から放射性Csを回収する実験の結果

反応温度が200 ℃を超えると土壌に残る放射能が大きく低下し、高いCsの除去率が得られます。

 

図1-12 Csを吸着したバーミキュライトの水熱条件下でのMgによる置換

拡大図 (188kB)

図1-12 Csを吸着したバーミキュライトの水熱条件下でのMgによる置換

Csを吸着したバーミキュライトでは、Cs吸着層(層間距離10.7 Å(=10−10 m))のピークがカリウム(K)吸着層(10.1 Å)とともに見えていますが、150 ℃以上での0.01 M塩化マグネシウム溶液による水熱処理でCs吸着層のピークが消失しています。

 

図1-13 土壌粒子の層状構造に安定化されたCsをMgにより置換して脱離する反応のモデル

拡大図 (217kB)

図1-13 土壌粒子の層状構造に安定化されたCsをMgにより置換して脱離する反応のモデル

層に捉えられたCsイオン(1価)をMgイオン(2価)により置き換える反応は温度依存性があり、高温で効率的に進行します。

 


東京電力福島第一原子力発電所とその周辺環境の土壌は、事故によりセシウム137(137Cs)などの放射性核種で汚染しました。発電所内外の汚染土壌は保管管理されており、将来の処分の検討に備え、有望な減容技術をあらかじめ用意しておく必要があります。放射性Csは、土壌の一部成分に強く吸着することが知られ、ふるい分けにより粗く分離できますが、さらに高い効果を得るためには化学処理が不可欠です。

Csは土壌粒子の層状構造の中に1価の陽イオンとして安定に保持されています。強く結合したCsイオンを脱離させるには、水の沸点を超える高い温度でCsと交換する陽イオンを高濃度に含む溶液と作用させることが必要となります。加圧した条件(水熱条件)において土壌粒子と水溶液を接触した後に、粒子をCsを含む水溶液から分離しますが、室温まで冷却してから分離する方法では、再びCsの吸着が起こり除染の効果が損なわれてしまいます。Csを土壌から除去するためには、加圧下で土壌粒子と水溶液を接触させ、かつ、Csを含む水溶液から分離する工学処理を実現しなければなりません。

工学的な原理実証のため、高温高圧下で連続的に固体(土壌粒子)と液体(水溶液)を接触させ、Csを除去する試験を行いました。土壌粒子を入れた反応槽を恒温槽に設置し、これに水溶液を連続的に流通する装置を製作して用いました(図1-10)。陽イオンとして過去の研究により有効であることを見いだしたマグネシウム(Mg)溶液を用いて、実際の汚染土壌からのCs除去を試みたところ、反応温度が200 ℃を超えると土壌に残る放射能が大きく低下し、高いCsの除去率が得られました(図1-11)。Csを吸着したバーミキュライトからMgイオンと置換してCsが除去される様子をX線回折により調べたところ、25 ℃ではMg吸着層(14.3 Å(=10−10 m)のピーク)が認められないのに対し、150 ℃以上ではCs吸着層(10.7 Å)が消失し、MgとKに由来するピークのみが観察されました(図1-12)。バーミキュライトの層状構造に捉えられたCsをMgと置き換えるとき、200 ℃以上の温度においてより効率的に達成できるものと考えられます(図1-13)。

本法は化学的な処理技術として効果的かつ実用的であると考えられ、土壌除染のための有望な候補技術になると期待できます。

本研究は、東京工業大学との共同研究「亜臨界水洗浄と固相抽出を利用した固体廃棄物からの放射性物質の回収」の成果の一部です。

(Xiangbiao Yin、駒 義和)