1-6 圧力容器内部における炉心溶融挙動の解明に向けて

ー原子炉圧力容器の破損メカニズムの評価ー

図1-14 解析コードによる2号機炉心温度分布

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図1-14 解析コードによる2号機炉心温度分布

SA解析コードRELAP/SCDAPSIMを用いて、事故進展解析を実施しました。事故時におけるRPV及びPCV圧力の計測値と、解析により得られた値を比較して、下部プレナムへの炉心物質移行についての感度解析を実施し、移行のタイミングと物量について推定しました。

 

図1-15 LIVE-J1試験における温度分布<sup>*</sup>

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図1-15 LIVE-J1試験における温度分布*

RPV下部ヘッドを模擬したLIVE試験装置の温度分布を示します。固体粒子状態で装荷した模擬物質は、下部ヘッド底部から溶融を開始し、溶融プールが形成されました。溶融プールは下部から次第に上部及び水平方向に発達し、最終的には壁側部に最も熱的負荷がかかることが分かりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置において、原子炉圧力容器(RPV)内部及び格納容器(PCV)内部の燃料デブリや核分裂生成物の状況を推定・把握することが必要です。事故後の原子炉の内部は線量が高く、炉心損傷の全容を把握することは困難ですが、2号機ではPCV内部調査が少しずつ進んでおり、ペデスタル(RPVを支持する円筒状の構造物)内部の状態が次第に分かってきています。ペデスタル内部の構造物が比較的健全であることから、RPVからペデスタル内部に流出した燃料デブリは比較的低温であったと予想され、酸化物の核燃料が完全に溶融する温度には至っていなかったと推定されています。従来の一般的な理解では、まず、RPV下部ヘッドにおいて高温の酸化物溶融プールが形成され、RPVは熱的及び機械的な負荷によって破損に至ると考えられていましたが、最近の現場情報や解析結果によると、2号機では下部ヘッド内部に堆積した燃料デブリのうち、融点の低い金属成分が先に溶融し、酸化物成分が固体のまま固液混合状態となって金属溶融プールが形成され、RPVが破損したものと考えられています。

そこで、1F特有の破損メカニズムを解明するため、まず、過酷事故解析(SA)コードによる2号機事故進展解析を実施し、炉心領域から下部ヘッドに移行した炉心物質量の推定を行いました。図1-14に解析結果による事故時の炉心の温度分布を示します。2011年3月14日午後9時から炉心温度が上昇し、午後10時には炉心領域の中心部温度が2500 ℃を超え、炉心溶融プールの形成を予測しています。その後、数時間かけて炉心物質の約6割が下部ヘッド内部に移行したと推定しています。その後、下部ヘッドの破損によって燃料デブリはペデスタル内部に落下しますが、下部ヘッドの損傷部位や損傷挙動については明らかではありません。

そのため、独・カールスルーエ工科大学(KIT)と共同で、融点の異なる二つの模擬物質(燃料デブリの酸化物成分・金属成分をセラミック・硝酸塩でそれぞれ模擬)を用いて下部ヘッドにおける固液混合プールの熱的挙動を把握する実験を実施しました。実験装置は1F実機と1 : 5.5のスケールの下部ヘッドを模擬したLIVE試験装置(KIT所有)を用い、固体粒子の模擬物質(セラミック 約245 kg及び硝酸塩 約80 kg)を装荷し、容器内部に設置されたヒーターによる加熱により崩壊熱を模擬しました。境界条件については、試験装置上部は断熱、側部は空気による自然対流としました。

図1-15に試験結果として温度分布の変化を示します。実験では下部から溶融が始まり、その後、溶融プールは上部及び水平方向に発達しました。固液混合の状態でも対流による水平方向の熱伝達はある程度生じるため、容器側部への熱負荷が大きくなることが実験で示されました。今後、数値解析と組み合わせることで、2号機の圧力容器の破損メカニズムの解明に貢献したいと考えています。

本研究の一部は、原子力機構とKITとの共同研究により得られた成果です。

(間所 寛)


*間所寛ほか, 下部ヘッド固液混合溶融プールの熱的挙動に関するLIVE試験, 日本原子力学会2021年秋の大会予稿集, online, 2021, 2J08.