2-2 原子力事故時に汚染したモニタリングポストは正しく測れるのか?を考える

ーモニタリングポストの建屋汚染による線量率測定値への影響推定ー

図2-7 PHITSによる計算の体系

図2-7 PHITSによる計算の体系

半径100 mの地表上にコンクリート建屋と測定器からなる実寸のMPを置いた体系を構築しました。測定器内では検出部となるNaI(Tl)結晶を模擬しています。構造物が無い空間は空気で満たしました。

 

図2-8 MP建屋汚染の測定値への影響

図2-8 MP建屋汚染の測定値への影響

PHITSによる計算から、図2-7の体系のような環境下でMP屋根と地表が同じ表面密度で均一に汚染されているとき、MP建屋汚染由来の線量率は測定値の44%程度を占めることを示しました。

 


放射性物質が放出される原子力災害が発生した場合、周辺に住む住民に対しては周辺環境の空間放射線量率(線量率)を根拠に避難等の防護措置が講じられます。周辺環境の線量率は、放射線測定器が屋根に設置されたモニタリングポスト(MP)等で測定されます。しかし、周辺環境と同様にMPの建屋が汚染された場合、測定器との距離が近いために線量率の測定値が周辺環境の線量率よりも高くなってしまいます。実際に、MP屋根の汚染により線量率の測定値が高くなった事例がありました*。これでは不要な避難等により避難人数が過度に増え、対応が追いつかなくなるといった過大な防護措置の実施につながる可能性があります。そこで本研究では、MP建屋の汚染が線量率の測定値にどの程度影響を与えるのかを評価しました。

影響評価には、放射線の輸送計算コードParticle and Heavy Ion Transport code System (PHITS)を用いました。まず、MP建屋及び地表面が汚染されたものと仮定し、図2-7に示すシンプルな計算体系を作成しました。なお、測定器表面は汚染しにくい素材かつ面積が小さく、影響の程度が小さいと見込んだため、今回は対象外としました。MPは実物を参考にコンクリート建屋と測定器の模擬を実寸で再現しています。測定器はNaI(Tl)シンチレーション式で、検出部である円柱形のNaI(Tl)結晶にて、放射線を捕らえます。地表は土壌とし、その半径は汚染からのγ線の空気中平均自由行程を考慮し100 mとしました。PHITSによる計算では、MP建屋の表面と地表面が同じ表面密度で均一に汚染されているものとし、測定器のNaI(Tl)結晶に到達した放射線のエネルギーとその数から、測定される線量率を推定しました。発生させた放射線は、セシウム134、セシウム137及びヨウ素131が出すγ線です。放射能の核種割合は東京電力福島第一原子力発電所事故を参考に設定しました。地表からの放射線影響を周辺環境、測定器に近いMP屋根からの放射線影響をMP建屋からの影響であると分類しました。

以上の条件でPHITSによる計算を行い、測定される線量率の内訳を評価したところ、MP建屋汚染由来が約半分の44%を占め、残りの56%分が周辺環境由来となることが推定できました(図2-8)。したがって、本計算条件では、MPで測定される線量率の過大評価につながる可能性が示唆されました。ただし、今回はシンプルな体系を用いたため、MP建屋汚染の影響が過大となったと考えられます。

今後はより現実に近い体系で計算を行う等、実際の原子力災害対応への適用に向けた検討を進めていきます。

本成果は、原子力機構のスーパーコンピュータ「ICE X」を利用して得られたものです。

(平岡 大和)


*水谷朋子ほか, 東海再処理施設周辺の空間線量率監視における福島第一原子力発電所事故の影響について, 日本保健物理学会第44回研究発表会, 水戸, 日本, 2011, B-42, p.110.