2-3 飛翔体衝突による構造物の損傷を予測する

ーより現実的条件を考慮した貫入現象の解析的影響評価ー

図2-9 局部損傷モードのイメージ図

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図2-9 局部損傷モードのイメージ図

鉄筋コンクリート壁(RC板)の局部損傷には、壁への「貫入」、壁の「裏面剥離」及び「貫通」があります。

 

図2-10 飛翔体衝突によるRC板の局部損傷の解析結果

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図2-10 飛翔体衝突によるRC板の局部損傷の解析結果

垂直衝突では、(a)の平坦型飛翔体と(b)の半球型飛翔体の損傷範囲は(b)がわずかに小さいもののほぼ同じであることが確認できます。(b)の垂直衝突と(c)の斜め衝突を比較すると、斜め衝突では貫入深さが深い箇所があるものの全体的には貫入深さは垂直衝突よりも浅くなり、損傷範囲は垂直衝突よりも広くなる傾向があること等を確認しました。

 

図2-11 RC板の損傷に寄与する内部エネルギー履歴

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図2-11 RC板の損傷に寄与する内部エネルギー履歴

飛翔体の先端形状がRC板の損傷へ及ぼす影響には、(a)垂直衝突か(b)斜め衝突かによって違いが表れました。衝突時のRC板の内部エネルギーで比較すると、垂直衝突の場合には、半球型飛翔体が平坦型飛翔体を大きく下回っているのに対し、斜め衝突の場合には、飛翔体の先端形状による違いは小さくなっています。

 

表2-1 表面損傷範囲の解析結果

表2-1 表面損傷範囲の解析結果

 


原子力規制委員会の新規制基準では、竜巻飛来物や航空機等の飛翔体が原子力施設に衝突する事象(飛翔体衝突)に対し、施設の安全性の確保が要求されています。この安全性の評価では、飛翔体衝突による原子力施設の建屋等の局部損傷(図2-9)と全体損傷に対する構造健全性の評価、並びに建屋の壁や床を伝播した衝撃波が建屋内包機器に及ぼす影響評価等が求められています。このうち私たちは、建屋外壁を対象とした飛翔体衝突による局部損傷評価に係る手法の整備及び異なる衝突条件による影響評価に取り組んでいます。

建屋外壁のような鉄筋コンクリート(RC)板状構造物(以下、RC板)の局部損傷は貫入、裏面剥離、貫通の損傷モードに区分され、その損傷モードに応じて実験データに基づく局部損傷評価式が提案されています。しかし、それらは衝突時に変形・損傷しない剛な飛翔体(剛飛翔体)による垂直衝突を対象としたものがほとんどでした。そこで、航空機のように衝突時に飛翔体自身も損傷する飛翔体(柔飛翔体)を対象に、より現実的な衝突条件である斜め衝突や複数の飛翔体先端形状等に対する局部損傷評価式を提案することを最終目標としました。まずは、異なる衝突角度、2種類の飛翔体先端形状(平坦型 : 先端部が円盤状、半球型 : 先端部が球殻状)による建屋の局部損傷に係る解析的影響評価を行うため、航空機のエンジンを模擬した飛翔体が建屋の外壁を模擬したRC板に衝突する場合の有限要素数値解析手法を整備し、その妥当性を既存の平坦型飛翔体による垂直衝突の実験結果を用いて検証しました。

次に、この解析手法を用いて、局部損傷のうち貫入に着目してその現象を解析しました。その結果、RC板の表面損傷に着目すると、垂直衝突と斜め衝突では表面損傷範囲が大きく異なり、斜め衝突の場合には縦に長くなり垂直衝突よりも損傷面積が広くなる傾向があることを確認しました。また、表面損傷においては、飛翔体の先端形状による違いはほとんど確認されませんでした(表2-1、図2-10)。

さらに、飛翔体衝突では表面だけでなくRC板の内部でも損傷が発生していることから、RC板の損傷に寄与する内部エネルギーに着目した分析も行いました。その結果、垂直衝突の場合、半球型飛翔体では平坦型飛翔体よりRC板の内部エネルギーが約4割小さくなりました。これは半球型飛翔体の先端部の座屈によりエネルギーが消費され、RC板の損傷が小さくなったためと予想されます。一方、斜め衝突の場合、飛翔体の先端形状による違いは小さく、垂直衝突とは異なる傾向が得られています。また、平坦型飛翔体では、衝突角度が垂直0度から斜め45度になったことによりRC板の内部エネルギーが約3割低減したのに対し、半球型飛翔体では、垂直衝突と斜め衝突によるRC 板の内部エネルギーはあまり変わらない結果となりました(図2-11)。

垂直衝突に比べて斜め衝突ではRC板の局部損傷が低減することを示す今回の解析結果は、より現実的な衝突条件として衝突角度等を考慮することにより、局部損傷評価の合理化が期待できることを示します。一方で、先端形状がRC板の損傷に与える影響が異なることから、RC板の損傷と飛翔体の先端形状等の関係に係る、さらなるデータ取得が必要であることも分かりました。

今後は、建屋外壁の局部損傷評価に加え、飛翔体衝突による建屋全体損傷評価や建屋内包機器に及ぼす影響評価に係る手法の整備にも取り組んでいきます。

(康 作夷)