2-6 炉内等廃棄物から漏出した核種の地下環境での動きを探る

ー地下水中のカルシウムの影響を考慮したニオブ吸着モデルの構築ー

図2-17 Nb吸着モデルの吸着種と溶存種の概念図

図2-17 Nb吸着モデルの吸着種と溶存種の概念図

本研究では、既存のモデルで考慮されていた溶存種Nb(OH)5、Nb(OH)6に加えて、溶解度実験で生成が推定されたCaNb(OH)6+を追加し、吸着種としてCaを含むsurf_OCaNb(OH)6を追加しました。

 

図2-18 0.1 M Ca(ClO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>水溶液中でのイライトへのNb吸着特性の解析結果

図2-18 0.1 M Ca(ClO4)2水溶液中でのイライトへのNb吸着特性の解析結果

本研究のモデルにより、Ca共存下における先行研究の実験値*の傾向を説明することができました。なお、吸着分配係数は、固相(鉱物)に吸着したNb濃度と液相のNb濃度との比であり、値が大きいほど高い吸着性を示します。

 


原子力発電所などの廃炉等から、放射能濃度が高い炉内構造物等の廃棄物(炉内等廃棄物)が発生します。この炉内等廃棄物は長半減期核種を含み、長期的に生活環境から遠ざけることが必要なため、地下への埋設処分が検討されています。処分の安全評価では、長期の間に廃棄物から放射性核種が漏出し、処分場周りの岩盤中を移行して生活環境に到達し、人間に被ばくを与える可能性を考慮します。漏出した放射性核種の移行は、岩盤を構成する鉱物への吸着により遅延することが期待されます。放射性核種の吸着性は地下水中の共存イオンの影響を受けると考えられ、また地下水組成は長期的な処分環境変化により変動すると考えられます。そのため、この変動に応じた信頼性のある核種の吸着性能を評価するための吸着モデルを構築する必要があります。

ニオブ94(94Nb)は炉内等廃棄物に含まれる長半減期(2.03万年)の核種で、処分の安全評価において被ばく線量に寄与するため重要な核種です。Nbの鉱物への吸着の研究例は少ない中で、Nbの吸着性に対する地下水成分であるナトリウム(Na)及びカルシウム(Ca)の影響を調べた研究*があります。岩盤を構成する鉱物のうち、比表面積の大きさから高い吸着性を有すると考えられる粘土鉱物の一種であるイライトへのNb吸着について、Naが共存する条件においては、Nb水酸化物錯体(Nbx(OH)y5x-y)の溶存/吸着種を考慮する既存のモデル(図2-17)によって実験値を説明できる一方で、Caが共存する条件においては、この既存モデルによる解析値と実験値に乖離が見られており(図2-18)、Ca共存下での吸着モデル構築が課題でした。

そこで本研究ではこの乖離の要因として、これまで考慮されていなかったCaを含むNb水酸化物錯体の存在を仮定し、新たなNb吸着モデルの構築に取り組みました。まずCaを含むNb水酸化物錯体の溶存種を検討するため、Ca共存系におけるNb溶解度実験を行いました。Ca濃度及びpHを変化させてNbの溶解度を測定した結果、これまで報告されている溶存種(Nb(OH)6-, Nb(OH)72-)だけではなく、Caを含むNb水酸化物錯体(CaNb(OH)6+)が生成し、支配的な溶存種であることが示されました。このため吸着種もCaを含むNb水酸化物錯体を形成していると考えられること、さらに吸着データにpH依存性がないことから、H+を含まない吸着反応(surf_O-+CaNb(OH)6+=surf_OCaNb(OH)6)を仮定した新たな吸着モデルを構築しました(図2-17)。溶解度実験から決定したCaNb(OH)6+の熱力学データを用い地球化学計算コード(PHREEQC)により解析を行った結果(図2-18)、これまで説明できなかった既往研究の実験値*の傾向について、説明可能なことを確認しました。

本研究の成果は、今後実施される炉内等廃棄物の処分における94Nbの岩盤への吸着性能に関して、信頼性の高い評価を行うための科学的根拠として活用されます。

(大平 早希)


* Ervanne, H. et al., Modelling of Niobium Sorption on Clay Minerals in Sodium and Calcium Perchlorate Solutions,Radiochimica Acta, vol.102, issue 9, 2014, p.839-847.