1-18 コンクリートへのセシウム吸着挙動解明に向けて

ー機械学習分子動力学によるセメント水和物の高精度シミュレーションー

図1-37 機械学習分子動力学の模式図

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図1-37 機械学習分子動力学の模式図

小規模な様々な構造(固体、水、表面等)に対し、大量の第一原理計算を実行することにより、第一原理データセット(約70000構造)を作成し、機械学習により与えられた構造のエネルギーと力を予測するモデルを作成します。この予測モデルに基づいた分子動力学を実行することにより大規模高精度計算が可能となります。

 

図1-38 セメント水和物表面・水界面における水・イオンの分布と輸送特性

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図1-38 セメント水和物表面・水界面における水・イオンの分布と輸送特性

(a)機械学習分子動力学により得られたセメント水和物表面・水界面の構造を示しています。ここで、セメント表面と水溶液界面の境界をz=0としています。(b)計算により得られた界面付近での水・カルシウムイオンの分布 、水の拡散係数です。表面付近で水の拡散係数が著しく低くなり、同時にイオンが表面付近に局在していることが分かります。

 


東京電力福島第一原子力発電所では、原子炉容器の破損等の結果、大量の放射性セシウムが原子炉格納容器のコンクリートに吸着し、非常に高い線量となっていることが分かっています。廃炉において生じる大量の汚染コンクリートの処理、減容化等において、コンクリート中のセシウムの吸着挙動を明らかにしていくことが重要となります。

セシウムはコンクリート中のセメント水和物に強く吸着されることが知られています。セメント水和物は非常に多孔質な物質であり、セシウムは水とともにセメント細孔中を移動し、セメント水和物表面に吸着されると考えられています。セシウムがどのような吸着サイトにどのような強度で吸着するか等の情報を得るためにはシミュレーションが重要となります。このような系のシミュレーションでは、細孔中の水・イオンの輸送、化学反応を考慮した大規模シミュレーションが必要となります。従来の高精度シミュレーション手法である第一原理計算では、このような大規模計算は不可能なものでした。

そこで、本研究では機械学習分子動力学法と呼ばれる手法を用い、この問題の解決に取り組みました。この手法では、原子数が数十から数百程度の様々な構造に対する第一原理計算データを大量に作成し、機械学習により第一原理計算の結果を再現する予測モデル(機械学習力場)を作成します(図1-37)。この機械学習力場を用いた分子動力学計算が機械学習分子動力学法と呼ばれますが、この手法では、第一原理計算並みの精度を持ちながら、第一原理計算より遥かに低い計算コストでのシミュレーションが可能となります。

本研究においては、まず、セメント水和物の基本構成元素であるシリコン、カルシウム、水素、酸素に対する機械学習力場の構築に取り組みました。構築した機械学習力場を用い、セメント水和物-水界面での数千原子規模の大規模分子動力学計算を実施し、水・カルシウムイオンの輸送・吸着特性を計算したところ、セメント水和物表面付近での水の拡散定数の実験値をよく再現することに成功しました (図1-38)。

セメント水和物のような、複雑な系に対する高精度シミュレーションは、従来の計算手法では困難なものでしたが、機械学習分子動力学法により、セメント水和物の高精度シミュレーションが可能となりました。今後はセシウムイオンを含んだセメント水和物の機械学習力場の構築を行い、コンクリートへのセシウムイオン吸着挙動の解明に取り組んでいく予定です。

(小林 恵太)




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