図1-36 森林内の放射性物質から発するガンマ線と空間線量率の関係を示す模式図
福島県の面積のおおよそ70%は森林であるため、林業従事者を始めとして住民の多くが森林内の空間線量率の経時変化に深い関心を寄せています。森林内の空間線量率の変化を予測するには、放射性物質(134Cs及び137Cs)の物理崩壊の半減期を考慮するほか、森林内での移動や森林外への流出を把握する必要があります。
しかし、それらの移動先及び移動量だけでは空間線量率の変化を知ることはできません。森林を表すモデルを構築し、放射性物質から放出されるガンマ線が、どのように森林内の土壌や樹幹及び枝葉に散乱され減衰するのかを調べるシミュレーションが必要となります(図1-36(a))。
その際、樹木の物質密度や寸法の他、放射性物質の樹木の部位ごとの存在量や土壌への浸透量等の情報が必要となるため、森林総合研究所及び筑波大学と連携し、それらの詳細な情報を入手しました。その結果、森林内でのガンマ線のシミュレーションが可能となったほか、得られた空間線量率に対し森林内のどの位置にある放射性物質が、どれほどの寄与を及ぼすかを詳細に分析できるようになりました。
その分析結果から、2015年以降、森林内の空間線量率のほとんどが森林土壌の上部5 cm内にある放射性物質から来るガンマ線に由来することが分かりました(図1-36(b))。
しかし、事故当初は、放射性物質の一部は樹冠部にもあったほか、土壌表層のリター層と呼ばれる落葉・落枝等が堆積した層にも存在していたため、空間線量率への寄与は異なり、時間とともに現在に至ったことが分かりました。
以上のように、人々が深い関心を寄せる空間線量率の経時変化を正確に分析するには、適切な環境モデルの構築とガンマ線のシミュレーションが必要です。さらにシミュレーションを活用すれば、森林内の空間線量率を低減するための効果的かつ実行可能な方法の事前テスト等も可能になります。例えば、木材チップを土壌表層に敷いた場合、どれほどの低減効果が期待できるか等の推定が容易に実施可能となります。今後は、このシミュレーションの特徴を活かし、コストも加味し低減効果が期待される最適な方法の提案等を目指します。
本研究は、森林研究・整備機構森林総合研究所及び筑波大学との共同研究で得られた成果の一部です。
(金 敏植)