3-6 エキゾチックなPcの正体を探る

ーコンパクトペンタクォークとハドロン分子が混在したハイブリット模型による解析ー

図3-11 標準的なハドロン : バリオンとメソン

図3-11 標準的なハドロン : バリオンとメソン

素粒子クォーク(q)からなるハドロンであるバリオン(qqq)とメソン(qq̄)の模式図です。は反クォークを表します。多くのハドロンはこの描像で大別することができ、陽子や中性子はバリオン、湯川秀樹(ノーベル物理学賞受賞)が予言したπはメソンの仲間です。

 

図3-12 <i>P<sub>c</sub></i>ペンタクォーク構造の例 : コンパクト状態とハドロン分子

図3-12 Pcペンタクォーク構造の例 : コンパクト状態とハドロン分子

五つのクォークから構成されると予想されるコンパクトペンタクォーク状態とハドロン分子の模式図です。ハドロン分子はπ交換力などの力で束縛しています。Pcはこれらの状態のどちらか、若しくは混合状態と考えられています。

 

図3-13 得られたペンタクォークの質量と寿命

図3-13 得られたペンタクォークの質量と寿命

実験値 (■)と本研究の予言値()の比較です。図中の■、の中心位置はペンタクォークの質量を、高さは寿命の逆数に対応し、エネルギーの単位(メガ電子ボルト(MeV))で表現されています。併記された数字はその質量の値を表します。

 


近年、世界の大型加速器実験施設より、これまでの予想を超えたハドロンの観測報告が相次ぎ、その正体を探るべく活発な研究が行われています。ハドロンとは、原子核を作る陽子や中性子の仲間の総称で、現在までに数百種類が知られています。ハドロンはバリオンとメソンに大別され、それぞれクォーク三つやクォークと反クォークから成る単純な構造が考えられていました(図3-11)。ここでクォークは素粒子の仲間で、反クォークはクォークの反粒子を指します。

しかし近年、単純なメソンやバリオンの描像では説明できない「エキゾチックハドロン」が報告されています。特に関心が持たれているのは欧州の加速器施設LHCでの実験で報告された“Pc”と呼ばれるハドロンです。このPcは五つのクォークからなるハドロン(=ペンタクォーク)と考えられています。ペンタクォークの候補は最初、兵庫県にあるSPring-8よりΘと呼ばれたものが報告されましたが、その後存在は確認されませんでした。LHCのPcは初のペンタクォーク発見となるかもしれません。

標準ハドロンよりも構成クォーク数が多いPcでは、五つのクォークがどのようなハドロン構造を形成しているのか全く分かっていません。本研究の目的は、理論的にPc構造を記述する模型の構築を行い、その予言を実験値と比較することでその正体を探ることです。

これまでの研究では、五つのクォークが密集して束縛状態を作るコンパクトペンタクォーク(c5q)状態や、5クォークがバリオンとメソンのクラスターに分かれ、それらが分子のように緩く束縛したハドロン分子などの構造が提案されました(図3-12)。先行研究ではそれら構造は独立に議論されてきました。しかし、c5q状態は分裂してハドロン分子となること(またはその逆)ができ、この二つの状態は「混ざり合う」ことができます。本研究ではこの混合に着目し、c5q状態とハドロン分子が混合することを考慮したハイブリット模型を提案しました。ハドロン分子を構成するメソンとバリオンの間にはπメソン(図3-11)を交換するπ交換力と呼ばれる力を考えます。この力は陽子と中性子の間に働くことで原子核を形成する重要なものとして知られています。

状態の混合(図3-12)に着目したハイブリット模型を用い、 ペンタクォークのエネルギーを予言しました(図3-13)。得られた予言値のうち三つは、Pcの質量・寿命の実験値と類似した値となりました。図中の矢印で結ばれたペアが対応する実験値と予言値になります。この結果より、Pcc5q状態とハドロン分子が混合したエキゾチックな状態である可能性が高いことが分かります。本模型による解析では、これまでの実験データが示す三つのPcの他に、未知のペンタクォークが複数存在する可能性も予言されました。今後の実験による探索が期待され、また、それは本模型のさらなる検証にもつながります。Pcの構造を解明することは、「クォークの閉じ込め」と呼ばれる、この宇宙の物質が素粒子クォークからどのようにして形成されたか、という根本的な問題の解明につながることが期待されています。

(山口 康宏)




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