図6-17 ユーティリティツールのフローチャート
図6-18 HTTRの運転に伴う臨界制御棒位置の変化
臨界制御棒位置は、炉心の核特性を把握する上で直接測定できる貴重な情報であり、核特性評価手法の妥当性を確認する上でも重要なパラメータの一つです。しかし、従来の臨界制御棒位置の計算では、手動で多数回臨界計算を行って制御棒の臨界位置を探し出す必要があり、多くの手間と作業時間が必要でした。特に、運転により燃料の燃焼が進む場合、燃料の核種密度データが変化するため、上記の作業に加え、物性値のデータを入れ替えながら臨界制御棒位置を探し出す作業が必要となるため、作業量が膨大となることが課題でした。例えば、高温工学試験研究炉(HTTR)炉心の核特性評価で使用するMVPコード等のモンテカルロコードを用いる場合、燃焼期間全ての臨界制御棒位置の計算に1週間以上の作業時間が必要となります。そこで、計算作業時間を短縮しつつ、かつ高精度の計算を行うことを目的として、臨界制御棒位置を自動探索できるユーティリティツールを開発しました。
ユーティリティツールのアルゴリズムを図6-17に示します。初めに、任意の制御棒位置を含む初期値を入力し、MVPコードで実効増倍率(keff)を計算します。MVPの計算が終了すると臨界状態(keff ≒ 1)かどうかをチェックします。非臨界(keff < 1 or keff > 1)のときは、制御棒の位置を再調整し、臨界状態になるまで計算を繰り返します。keffがほぼ1に達する(誤差を指定してその範囲内に収まる)と制御棒位置が記録され、指定された出力と運転時間でMVP-BURNによる燃焼計算が実行されます。この後、燃料の燃焼に伴って変化した核種密度データを読み取り、次のステップの入力データを更新して計算が実行されます。次に、前のステップと同様に臨界制御棒位置の自動探索が始まり、これを指定した燃焼度まで繰り返します。
従来、炉心の燃焼に伴う臨界制御棒位置変化の計算は、計算量が膨大となるために制御棒位置を固定して計算されてきましたが、本ユーティリティツールでは常に臨界制御棒位置を求めて計算するため、原子炉の運転をより忠実に再現できます。さらに、臨界制御棒位置の自動検索、核種密度の自動更新、計算システムでのジョブ実行など、これまで手作業で行ってきた全ての計算を自動化することにより、作業時間を2日未満に短縮できました。この時間短縮は、より詳細な計算モデルを開発する上でも大きなメリットとなります。
HTTRの運転に伴う臨界制御棒位置の変化を図6-18に示します。この結果から、本ユーティリティツールを使った計算値は、測定値と良く一致しており、実験値との差は約5%であることが確認できました。
以上の結果から、本ユーティリティツールは、HTTRの臨界制御棒位置を精度良く評価できること、計算に必要な複雑な作業を自動化できること、これにより作業時間を約1/3に短縮できることが確認できました。今後、本ユーティリティツールを活用することで、より詳細な計算モデルの開発が可能となり、HTTR炉心の核計算精度向上への貢献が期待できます。また、この計算手法は、HTTRのみならず、他の原子炉にも応用できることから、今後の利用価値も高まるものと考えられます。
(Hai Quan Ho)