6-6 IS法の主反応の省エネルギー化に成功

ーブンゼン反応過電圧を低減する膜・電極を開発ー

図6-14 カチオン交換膜を用いたブンゼン反応(膜ブンゼン法)

拡大図 (92kB)

図6-14 カチオン交換膜を用いたブンゼン反応(膜ブンゼン法)

陽極と陰極をカチオン交換膜で隔て、陰極側でヨウ素(I2)の還元によりヨウ化水素酸(HI)が生成し、陽極側で二酸化硫黄(SO2)の酸化により硫酸が生成します。

 

図6-15 開発した多孔質金電極の表面拡大写真

図6-15 開発した多孔質金電極の表面拡大写真

多孔質状の金表面により、反応に有効な表面積が増加し、陽極反応が容易に進行することで、電極反応に伴う過電圧が減少します。

 

図6-16 ブンゼン反応過電圧の電流密度依存性

図6-16 ブンゼン反応過電圧の電流密度依存性

開発した電極及びカチオン交換膜を用いた膜ブンゼン法では、従来の結果と比べて、1/3以下の反応過電圧まで低減しています。

 


水素社会の実現を目指し、高温ガス炉の熱利用技術として、熱化学法水素製造法ISプロセス(IS法)の研究開発を行っています。IS法は、ヨウ素と硫黄の化学反応を組み合わせて水分解により水素製造を行う化学プロセスです。

IS法の出発点であるブンゼン反応は、水にヨウ素と二酸化硫黄を反応させることで硫酸とヨウ化水素酸の2種類の酸を生成します。このブンゼン反応を進行させるために、水素イオン選択透過性を有するカチオン交換膜を利用した電解セルでブンゼン反応を進行させる、膜ブンゼン法と呼ばれる方法があります(図6-14)。従来はブンゼン反応後に2種類の酸の分離を必要としていましたが、カチオン交換膜で隔てた2室で、2種類の酸を分離した状態で反応させられるため、反応後の溶液分離操作を必要としない簡易で優れた方法として期待されています。しかしながら、従来の電極及びカチオン交換膜を用いた膜ブンゼン反応では、電解セルに生じる過電圧が大きく、消費電力が過大となるため、熱効率の面で実用的ではなくIS法への適応は実現していません。過電圧は、主に陽極側の電極反応及び水素イオンの透過に伴う膜抵抗により発生することが分かっています。そこで、膜ブンゼン反応の実現を目指し、過電圧を低減する新規の電極及びカチオン交換膜の開発を試みました。

電極に対して、芝浦工業大学と共同で、陽極用の多孔質状の金電極を開発しました(図6-15)。多孔質化の結果、電極の有効表面積が増大し、陽極反応の進行が容易になり、電極反応に伴う過電圧を低減することができました。

カチオン交換膜に対しては、量子科学技術研究開発機構で研究開発している放射線グラフト膜製作技術を利用し、水素イオンの透過に必要な導電性を担うイオン交換基を従来膜と比べて多く導入した膜を作成しました。これにより、ブンゼン反応に必要な水素イオンの透過に伴う膜抵抗を削減しました。

これら新規の電極及びカチオン交換膜を組み込んだ膜ブンゼン反応試験を行い、ブンゼン反応が量論比で進行するとともに、従来の電極やカチオン交換膜の使用時に比べて、200 mA/cm2の電流密度において、過電圧が1/3以下の0.21 Vと大きく低減できることを示しました(図6-16)。この結果により、実用的な熱効率の達成に見通しを立て、膜ブンゼン反応の技術的適用性を示すことができました。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の委託研究課題「熱利用水素製造」の成果の一部です。

(田中 伸幸)