図6-11 シリカ膜の外観写真
図6-12 シリカ膜に対する各種ガスの透過性能
図6-13 HI供給量に対するHI分解率の関係
高温ガス炉の熱利用技術として、熱化学法水素製造法ISプロセス(IS法)の研究開発を行っています。IS法は、次の三つの化学反応を組み合わせて水分解により水素製造を行う化学プロセスです。
ブンゼン反応(100 ℃)
SO2 + I2 + 2H2O → H2SO4 + 2HI | (1) |
硫酸分解反応(850 ℃)
H2SO4 → H2O + SO2 + 0.5O2 | (2) |
ヨウ化水素(HI)分解反応(400 ℃)
2HI → H2 + I2 | (3) |
これらの反応の中でHI分解反応の平衡反応率は、400 ℃で約20%と比較的低いため、反応率の向上が課題となっています。この課題解決のため、HI分解反応触媒と水素ガス(H2)選択性の分離膜を組み合わせた膜反応器の研究開発を行っています。これまでに、高いH2選択透過性を持ち、高腐食性のHI環境でも安定な水素分離膜を開発し、その水素分離膜とHI分解反応触媒を組み合わせた膜反応器の実証を行ってきました。
水素分離膜として、アルミナ基材上にヘキシルメトキシシランを化学蒸着したシリカ膜を製膜しました(図6-11)。このシリカ膜に対する各種ガス(He、H2、N2、HI)の透過性能を測定したところ、作成したシリカ膜は高いH2透過性能に加えて、高いH2/HI透過性能比(HIに対するH2の選択性)を示しました(図6-12)。加えて、腐食性のHI環境においても11時間安定に機能することが確認できました。
このシリカ膜を組み込んだ膜反応器を用いて、HI供給量に対するHI分解率の関係を検討しました(図6-13)。膜反応器は触媒である活性炭を充てんした金属を外管とし、シリカ膜を内管として挿入することで構成されています。HIは金属管とシリカ膜の隙間を流れ、HI分解反応(式3)により生じたH2が選択的にシリカ膜を通して抽出されることになります。この膜反応器は、HI供給量が小さいほど良好な性能を示し、最大で98%のH2抽出率に達し、そのときに平衡分解率の20%よりも大幅に向上した70%のHI分解反応率を示しました。これは、膜反応器の導入により、HI分解反応の循環流量を80%削減し、熱効率を1%改善させることに相当し、膜反応器の実用化に求められる性能を実証しました。今後は、膜反応器の大型化に必要な長尺の製膜技術の開発を進めていく予定です。
(Odtsetseg Myagmarjav)