7-1 中性子で分離塔内部の吸着元素を見てみよう

ー共鳴中性子イメージングによる分離塔内部元素の非破壊可視化ー

図7-2 共鳴中性子イメージングの実験方法

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図7-2 共鳴中性子イメージングの実験方法

分離塔には、多孔質シリカ粒子にスチレンージビニルベンゼン共重合体を被覆した有機無機複合担体に、CMPO抽出剤を染み込ませた粒子(CMPO含浸吸着材)を詰めておきます。分離塔を透過後に減少した中性子数から、同位体の判別だけではなく、空間分布が可視化できます。

 

図7-3 中性子エネルギーに対する透過率の測定結果

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図7-3 中性子エネルギーに対する透過率の測定結果

分離塔透過前後における中性子の減少割合を示しています。本情報から、分離塔にW、Mo、Co、Mnの元素が含まれていることが分かります。

 

図7-4 分離塔の外観写真と中性子ラジオグラフィ像

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図7-4 分離塔の外観写真と中性子ラジオグラフィ像

分離塔内部で形成したEuの吸着帯を、分離塔を破壊することなく、“見る”ことができます。

 


使用済核燃料の再処理プロセスにおいて、エネルギー源として再利用するウランとプルトニウム以外の元素等は高レベル放射性廃液として管理され、ガラス固化処理後、地層処分されます。私たちは、半減期の長いマイナーアクチノイド(MA)を高レベル放射性廃液から分離することで、地層処分に係る廃棄物発生量や潜在的な有害度の低減を目指しており、MAと親和性の高い粒子(CMPO含浸吸着材)を充てんした分離塔による「抽出クロマトグラフィ」の技術開発を進めています。廃液を供給後、親和性にしたがって、MAは分離塔内で吸着帯を形成し、その他元素と分離されます。実廃液を用いた本技術の実証実験では99%のMA分離を達成しており、MA製品の純度向上には、分離塔内部の現象、例えば供給液の流れや粒子との接触状況等を明らかにする必要があります。そこで、本研究では、MAの模擬元素であるユウロピウム(Eu)を分離塔に供給し、共鳴中性子イメージングによって、吸着帯の可視化を試みました。

図7-2にJ-PARCの中性子照射実験装置での実験模式図を示します。中性子を分離塔に照射し、透過した中性子を検出器で測定します。このとき、パルス中性子源から検出器までの中性子の飛行時間で中性子エネルギーを求め、分離塔透過後に減少した中性子の数とそのエネルギーから、元素の空間分布と種類をそれぞれ特定します。これらの情報を組み合わせた中性子ラジオグラフィ像の濃淡によって、分離塔の内部構造を“見る”ことができます。

抽出クロマトグラフィのように、分離塔内部にH2O(軽水)を含む場合、中性子が透過しにくくなり、ラジオグラフィ像が得られなくなります。そこで、私たちは、化学的性質が同じで、水素より少し重く、中性子と反応しにくい重水素を用いることによって、この課題を克服しました。図7-3Aは重水、Bは硝酸を重水素化した重硝酸、Cは重硝酸で調製後、Euを供給した分離塔の中性子透過スペクトルをそれぞれ示します。重水や重硝酸で満たした分離塔の透過率は、H2Oの20%に比べて50%程度まで向上し、乾燥粒子の充てん時と同等になりました。透過率Cでは、中性子エネルギー0.46 eVで特徴的な中性子数の減少が見られました。このエネルギーの値は同位体固有であり、最も大きく共鳴反応するEu-151の存在を示す証拠となります。先述の通り、分離塔内部にEuの吸着帯が形成されていると予想され、図7-4Cの中性子ラジオグラフィ像において、明瞭なEuの吸着帯を確認しました。 

本研究によって、分離塔内部に形成した吸着帯の可視化が可能になりました。今後、溶離する際の吸着帯の時間変化や、複数元素の分離過程における吸着帯の様子を追跡できるように検討を進めます。また、共鳴中性子イメージングの結果をフィードバックし、抽出クロマトグラフィによる最適なMA分離条件を策定するため、数値シミュレーションコードの高度化にも取り組んでいきます。

(宮﨑 康典)




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