7-2 大型高速炉の出力分布の計算精度を改善

ー制御棒計算手法の高度化研究ー

図7-5 制御棒と周辺燃料の体系モデルの改良

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図7-5 制御棒と周辺燃料の体系モデルの改良

改良モデルでは、制御棒の置かれた場所に応じて周辺の複数の燃料領域(内側炉心燃料、外側炉心燃料、径方向ブランケット)を扱うとともに、反射(等方反射)と真空の二つの境界条件により、炉心の中心から外側へ向かう中性子の流れを模擬しました。

 

図7-6 大型炉心の径方向出力分布の改善例

図7-6 大型炉心の径方向出力分布の改善例

モンテカルロ法で算出した参照解からの相対差異をプロットしたものです。図7−5の改良モデルにより、炉心の中心から離れた領域においても、制御棒のモデル化が影響する出力分布の計算精度を改善できました。

 


制御棒は原子炉を運転・制御する重要な装置です。制御棒による中性子吸収効果が正しく評価されないと、炉心の設計に影響が出てしまいます。径方向に扁平化した大型炉心では、制御棒の計算誤差により、径方向の出力分布にも計算誤差が発生しやすく、それを考慮した余裕を持った設計をしなければならないという課題がありました。

さて、制御棒の計算のどこで誤差が生まれるのでしょうか。まず、設計用の炉心計算が、下記の二段階で行われることを説明しなければなりません。

第一段階では、制御棒や燃料の集合体内といった炉心の一部分の詳細な構造に着目した計算を行い、第二段階で炉心全体に着目した計算を行います。ここで、第二段階で集合体内の詳細構造を扱わなくても第一段階の結果が再現されるよう、核反応データに係数をかけ実効的なものにします。制御棒に関しては、第一段階で計算した制御棒と周辺燃料の中性子吸収反応率の比を核反応データに乗ずる「反応率比保存法」が確立していました。

従来は図7-5(a)の制御棒と周辺燃料の体系モデルを設定し第一段階の計算を行い、炉内の全ての制御棒についてこのモデルを適用していました。本研究では、従来モデルの再構築に挑みました。モデルの妥当性を判断する指標として、反応率比保存法の主要因子である「制御棒と周辺燃料の中性子吸収反応率の比(以下、α値)」に着目しました。また、炉心体系を制御棒や燃料集合体の詳細構造から忠実にモデル化できるモンテカルロ法により参照解を求めました。統計的手法であるモンテカルロ法では、膨大な計算時間を要するため、炉心設計には従来の決定論的手法の高度化が必要とされました。

炉心の中心に近い所にある制御棒については、制御棒と周辺燃料の本数比を対象炉心と合わせるなどの従来モデルの修正で、比較的容易にα値を改善でき、炉心の中心付近の制御棒の中性子吸収の過大評価が原因で生じていた計算誤差を改善する目途が立ちました。しかしながら、炉心の中心から離れた所にある制御棒については、α値を参照解と合わせることができません。制御棒周辺に内側炉心燃料、外側炉心燃料、径方向ブランケットと複数の領域があること、さらには炉心の中心から外側にかけて中性子の流れがあり、向きによって流れ方が変わることがその原因と考え、図7-5(b)の改良モデルを考案しました。扇型の領域分割により複数領域の周辺燃料配置を模擬するとともに、反射と真空の二つの境界条件の組合せにより中性子の流れを模擬しています。これにより、α値を改善することができました。

炉心設計計算への改善効果をいくつかの制御棒挿入パターンについて評価した結果、上述の改良モデルにより、制御棒の反応度価値については、モンテカルロ法による参照解との相違が0.13%以下(従来の6分の1)に改善、径方向の出力分布についても図7-6に例を示すように参照解との相違が改善し、0.35%以下(同3分の1)となりました。こうして、大型高速炉に対して使用できる高精度の制御棒計算手法を構築できました。

(滝野 一夫)