7-3 高速炉の炉心崩壊事故時の溶融物質の挙動評価を目指して

ー制御棒溶解材の基礎物性データベース整備ー

図7-7 ステンレス鋼と、ステンレス鋼に制御棒材(炭化ホウ素)を5%溶解させた制御棒溶解材の(a)密度評価結果、(b)比熱評価結果

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図7-7 ステンレス鋼と、ステンレス鋼に制御棒材(炭化ホウ素)を5%溶解させた制御棒溶解材の(a)密度評価結果、(b)比熱評価結果

ステンレス鋼に制御棒材(炭化ホウ素)を溶解させると、(a)制御棒溶解材の密度は低下し、(b)比熱は上昇する傾向が見られました。破線より左側の液相物性データは、過冷却状態の液相の物性値を示します。

 


ナトリウム冷却高速炉(高速炉)においては、万が一、燃料が溶融して炉心が崩壊する重大事故が発生した場合に、溶融炉心物質が原子炉容器内で保持・冷却されることを評価することが重要です。

高速炉の出力調整に用いる制御棒材(炭化ホウ素)及びその被覆管材(ステンレス鋼)の溶融温度は、それぞれ約2770 K及び約1720 Kですが、事故時に燃料損傷部近傍の高温雰囲気に両者がさらされた場合には、それらの溶融温度より低い温度で、合金(制御棒溶解材)を形成して液化する現象が知られています。制御棒溶解材には流動性があるので、これが、溶融炉心内に混ざっていくことにより、溶融炉心物質の発熱量を大幅に低減する効果が期待されます。より合理的な高速炉の設計に資するため、高温下における制御棒材とステンレス鋼の合金化による液化挙動と、生成される制御棒溶解材の溶解炉心内の移行挙動を評価できるように解析プログラムの改良を進めています。この改良にあたっては、固体から液体までの広い温度範囲にわたって、いろいろな組成割合での制御棒溶解材の密度、比熱等の物性データが必要になります。そこで、連携研究機関と協力し、制御棒溶解材の物性データ整備と解析プログラムの改良を並行して実施しています。

物性データ整備では、まず溶融温度が最も低くなると考えられるステンレス鋼中に5%炭化ホウ素を溶解させた制御棒溶解材を合成し測定に着手しました。図7-7にステンレス鋼と制御棒溶解材の(a)密度、(b)比熱の測定結果を示します。図7-7(a)より、ステンレス鋼中に5%の炭化ホウ素を溶解させることにより、密度は室温で約6%低下すること、温度上昇に伴い制御棒溶解材の密度の減少量はステンレス鋼より若干少なくなる傾向があることが分かりました。一方、図7-7(b)より、比熱は室温で約7%上昇し、固相における温度上昇に伴う比熱の変化は、ステンレス鋼、制御棒溶解材とも同様の傾向を示しますが、液相では比熱は温度によらずほぼ一定となることが分かりました。以上より、炭化ホウ素5%を溶解させた制御棒溶解材に対して相変化をまたぐ物性データを整備しました。今後、制御棒溶解材中の炭化ホウ素溶解割合を変えて物性データの測定を行い、熱物性データ集としてまとめるとともに、固液相共存領域の物性推定方法を検討し、これら物性評価式を作成して、解析プログラムの改良に役立てる予定です。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業である「平成28年度高速炉の国際協力等に関する技術開発」の成果の一部です。

(高井 俊秀)


*1 Fukuyama, H. et al., Thermophysical Properties of Molten Stainless Steel Containing 5 mass % B4C, Nuclear Technology, vol.205, issue 9, 2019, p.1154-1163.


*2 原子力安全基盤機構, 複雑形状部機器配管健全性実証(IAF)事業原子炉圧力容器の異材溶接部に関する高温材料特性データ集, JNES-RE-2012-0024, 2013, 122p.