7-4 耐照射性に優れる炉心材料の最適な合金を目指して

ー材料劣化因子である照射点欠陥挙動の定量評価技術の開発ー

図7-8 ナトリウム冷却高速炉の燃料構造設計例

図7-8 ナトリウム冷却高速炉の燃料構造設計例

核燃料そのものに加え、発生する核分裂生成物は、燃料被覆管や上部及び下部の端栓で封じ込められています。この一体の構造を燃料要素と呼び、燃料要素は炉心燃料集合体内に束ねられ、炉心へ装荷されます。

 

図7-9 Fe-Cr-Ni系オーステナイト鋼中性子照射材(476 ℃、18 dpa<sup>※</sup>)に形成したボイド欠乏帯

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図7-9 Fe-Cr-Ni系オーステナイト鋼中性子照射材(476 ℃、18 dpa)に形成したボイド欠乏帯

各鋼種のボイド欠乏帯幅は、結晶粒A及びBに形成された幅を複数箇所にて測定し、これらを平均して算出しています。空格子の拡散性に依存するボイド欠乏帯は、Ni成分量の増加に伴い増加し、材料中の空格子の拡散性が鋼種ごとに異なることが示されました。
※ dpaはdisplacement per atomの略であり、中性子照射量(弾き出し損傷量)の単位を表す。

 

図7-10 空格子拡散係数とスエリング量の関係(図7-9の4鋼種の評価結果)

図7-10 空格子拡散係数とスエリング量の関係(図7-9の4鋼種の評価結果)

図7-9のボイド欠乏帯幅を用いて、空格子拡散係数を算出し、スエリング量との定量的な関係性を構築することができました。これら4鋼種においては、Ni成分量増加に伴うスエリング量の低下は空格子の高い拡散性に起因することが示されました。

 


原子炉の基本的安全機能として、核燃料は核分裂により放出される放射性物質の外部漏えいを防止するために燃料被覆管と呼ばれる金属薄肉細管で覆われています(図7-8)。燃料被覆管は炉内で中性子照射の影響を受けることから、材料劣化が生じにくいこと(耐照射性)が要求されます。

現在、私たちは高速炉を利用した放射性廃棄物の低減化に係る研究開発として、既存の燃料被覆管材(改良SUS316相当鋼)の性能を超える長寿命の燃料被覆管の開発を進めています。長寿命化のためには、特に材料劣化を引き起こすスエリング(膨張)現象を抑えることが重要です。スエリングは、照射により生成した点欠陥(空格子及び格子間原子)の材料中の挙動(拡散や量)に起因します。そのため、スエリング抑制には点欠陥挙動を適切に制御することが重要ですが、既往研究では点欠陥挙動とスエリング量との定量的関係性が明らかになっておらず、さらにスエリング量の評価手法は確立されているものの、点欠陥挙動は手法確立に至っていません。この評価手法を開発した上で、合金成分の異なる様々な鋼種に対してこれらの関係性を明らかにできれば、主要合金成分の選定や微量元素添加による成分微調整に係る適切な設計戦略を構築することができ、既存の合金設計手法を補う新手法として活用が期待されます。

そこで、本研究では、改良SUS316相当鋼と同じFe-Cr-Ni系オーステナイト鋼を対象に、点欠陥挙動を評価するための手法開発を試みました。照射後組織から評価できる手法として、空格子の拡散性に依存するボイド欠乏帯(照射により粒界に形成されるボイドの無形成層)に注目しました。このボイド欠乏帯の幅を透過電子顕微鏡観察により測定し、既存のボイド欠乏帯の形成理論式(拡散係数依存)と反応速度論式(濃度依存)を用いた計算を組み合わせた結果、空格子の拡散係数と濃度の数値化に成功しました。図7-9はCr量を15wt%に固定し、Ni量を15wt%から30wt%に変化させた4鋼種の中性子照射材(「常陽」照射材)で形成されたボイド欠乏帯を示したものであり、Ni成分量によりその幅が変化することが分かります。代表として、この幅を用いて算出した拡散係数と各鋼種のスエリング量の関係を図7-10に示します。4鋼種におけるスエリング抑制は、拡散係数の増加に起因するものであることが分かり、拡散係数とスエリング量の定量的関係性を導くことができました。今後は、スエリング抑制に関する合金成分設計の最適化を目指して、“材料固有の拡散係数がどの数値をとる場合に、スエリング抑制が図れるか”といった知見を取得するために、合金成分を変えた様々な中性子照射済試料に対するデータ拡充を行い、これらの関係性の精度向上を図っていく予定です。

本研究は、北海道大学との共同研究「高速増殖炉用オーステナイト系ステンレス鋼における照射欠陥蓄積挙動の定量的評価に関する研究」の成果の一部です。

(関尾 佳弘)