図7-11 改良したMA(Ⅲ)回収プロセスの概要
図7-12 ホットセル内に設置した試験装置
図7-13 CMPOカラムでの分離曲線
図7-14 HDEHPカラムでの分離曲線
原子力発電によって生成する使用済燃料の処理に伴い発生する放射性廃棄物の減容化・有害度低減の有望な選択肢として、長半減期で発熱性を有するAmやCmといった3価のマイナーアクチノイド(MA(Ⅲ))を放射性廃棄物から分離し、核変換することが考えられています。これまでに日本だけでなく、アメリカやフランスを含む様々な国で、種々の金属元素を含む高レベル放射性廃液(HLLW)からMA(Ⅲ)を分離するための研究が実施されてきています。ランタノイド元素(Ln(Ⅲ))は効率的な核変換を阻害するためMA(Ⅲ)と分離する必要がありますが、水溶液中でMA(Ⅲ)と同じく3価のイオンとなり類似の化学的挙動を取るため、MA(Ⅲ)とLn(Ⅲ)との分離が開発の主要な課題です。
世界的には多くの利用実績のある溶媒抽出法を用いたプロセスの開発が多く見られますが、我々は溶媒抽出の原理を利用しつつ、より廃棄物発生量が少ないと期待される抽出クロマトグラフィ技術を用いた開発を進めています。本技術は多孔質シリカ粒子表面にポリマーを被覆した粒子(SiO2-P)に、MA(Ⅲ)に親和性のある抽出剤を含浸させた粒子を吸着材として用い、カラム操作によってMA(Ⅲ)の分離回収を可能とします。これまでの研究では、抽出剤であるCMPO、HDEHPを含浸させた吸着材をそれぞれ、一段目、二段目のカラムとして利用した二段階の分離法の開発を行ってきました。一段目では種々の金属の中から化学的に類似のMA(Ⅲ)とLn(Ⅲ)とが回収され、二段目においてMA(Ⅲ)がLn(Ⅲ)から分離されます。本プロセスでは、MA(Ⅲ)の回収率が70%にとどまること、最終的に得られるMA(Ⅲ)製品溶液に錯形成剤を多く含むことが課題でした。
より実用性の高いMA(Ⅲ)回収プロセスを構築することを目的として、CMPO及びHDEHPへのLn(Ⅲ)の親和性の違いに着目し、軽希土類元素(lLn: La-Nd)と重希土類元素(hLn: Sm-Gd)の振る舞いの違いを利用した分離法を考案しました(図7-11)。これまで二段目に利用していた錯形成剤であるDTPAを一段目のカラムに用いることで、MA(Ⅲ)の錯形成剤を含まない硝酸中への高収率な回収を狙いました。模擬HLLWを用いたカラム分離試験によりプロセス条件の最適化を行い、得られたフローを用いてホットセル内での実HLLWを対象とした実証試験を実施しました(図7-12)。その結果、一段目のカラムにおいてlLnとその他金属元素を(図7-13)、二段目のカラムにおいてMA(Ⅲ)とhLnとを分離(図7-14)することに成功しました。Ndは二段目のカラムではMA(Ⅲ)とは分離されないものの、一段目のカラムで目標とする除染係数100を達成可能であることを示しました。本プロセスを用いることで、90%以上のMA(Ⅲ)を高い純度で硝酸水溶液中に回収出来ることを実証し、実用性のあるMA(Ⅲ)回収プロセスを提示できました。
本研究は、芝浦工業大学との共同研究「MA回収用吸着材の最適化に関する研究」の成果の一部です。
(渡部 創)