図10-2 大阪大学の LDNSを用いた透過中性子測定実験の概要図
図10-3 実験結果とシミュレーション計算によるTOFスペクトル
原子力の平和利用を担保するためには、各国や地域が平和利用の目的で保有する核物質量を適宜測定し、収支状況等を管理していくこと(計量管理)が重要です。一方で、計量管理を必要とする核物質は、原子力の利用拡大とともに増え続けており、限られたリソースで計量管理を行うため、特に核物質を計量するプロセスの効率化が課題となっています。短時間で効率よく核物質を計量するために非破壊分析装置が活用されていますが、高い精度で計量するための装置は大規模であるため、核物質が存在する原子力施設等での導入は容易ではありません。また、次世代原子炉の燃料や高線量核物質への対応も課題となっています。これらの課題を解決するため、私たちは、非破壊分析装置の小型化を目指し、レーザー駆動中性子源(Laser-Driven Neutron Source: LDNS)を用いた中性子共鳴透過分析(Neutron Resonance Transmission Analysis: NRTA)システムの開発を行っています。
NRTAでは、パルス中性子源から発生した中性子が試料を透過して検出器に到達するまでの飛行時間(Time-of-Flight: TOF)を測定することで、中性子の速度(エネルギー)分布を求めます。原子核は、固有の中性子共鳴エネルギーにおいて大きな核反応確率を持つため、透過中性子の到達時間分布(TOFスペクトル)には、核反応確率に応じた透過率の減少が共鳴ピークの凹みとなって現れます。凹みの位置及び深さは、試料中の原子核の種類と量によって決定されるため、これを分析することで、核物質の計量を行うことができます。本手法は、検出器を試料から離して設置できるため、使用済核燃料のような強い放射能を伴う核物質の測定にも有効です。
NRTAで核物質を精度良く計量するためには、中性子の飛行距離を長く、中性子源のパルス幅を短くすることが有効です。一方で、システムを小型化するためには、中性子の飛行距離を短くしたいため、計量の精度を維持するには、より短いパルス幅の中性子源が必要となります。そこで私たちは、短いパルス幅の中性子を発生でき、かつ、近年の技術革新により今後さらなる小型化・高性能化が期待できる LDNSに着目しました。
LDNSを NRTAに適用して装置を小型化するにあたり、ガンマ線背景事象の増加や、単位時間当たりの中性子検出数の増加(高計数率化)への対応が課題となります。この課題を解決するため、私たちは、低いガンマ線感度と高い中性子検出効率を兼ね備えたリチウム 6(6Li)ガラスシンチレータを用いた中性子検出器(特願 2021-214537)や、高計数率化に対応したデータ処理システム等の開発を行ってきました。さらに、LDNSの短いパルス幅を活かすため、高速中性子を効果的に減速するためのモデレータをシミュレーション計算により設計しました。また、適用可能性を実証するため、大阪大学で開発したLDNSを用いて、NRTAシステムによる透過中性子測定実験を行いました。実験の概要を図10-2、透過中性子の TOFスペクトルを図10-3に示します。図10-3のとおり、実験結果はシミュレーション計算と類似の傾向を示し、TOFスペクトル中にはインジウム(In)と銀(Ag)の存在を示す共鳴ピークが確認できます。これは、LDNSを用いた NRTAにより試料の識別に成功したことを示しており、LDNSを NRTAに適用することで、従来よりも小型な非破壊分析装置の実現が期待できることを本研究により実証できました。
本研究は、文部科学省「核セキュリティ強化等推進事業費補助金」事業の一環として実施したものです。
(弘中 浩太、李 在洪)