4-5 核燃料サイクルシミュレーターを一般公開

−高速・汎用・柔軟なNMB4.0を開発し、将来の原子力利用戦略立案に貢献−

図4-10 NMB4.0が取り扱う核燃料サイクル

図4-10 NMB4.0が取り扱う核燃料サイクル

燃料採掘から地層処分までの全ての工程を流れる核燃料物質及び核分裂生成物の物量を評価することができます。

 

図4-11 NMB4.0の解析例

図4-11 NMB4.0の解析例

今世紀後半に高速増殖炉に本格移行するシナリオ(a)において、マイナーアクチノイド(Np, Am, Cm)がどのように蓄積するかを(b)に示します。2050年からマイナーアクチノイドを分離し、2060年から5基の加速器駆動システム(ADS)を段階的に導入して核変換することで、高速増殖炉の本格稼働前にマイナーアクチノイドの蓄積量(茶色線)を低減でき、地層処分場の負荷を緩和できる可能性が示されました。

 


現在我が国では、将来の原子力利用のために様々な炉形(高速炉、軽水炉、小型炉ほか)や、廃棄物処分の負荷を低減する再処理技術の開発が進められています。実現を目指して開発を本格化するにあたっては、導入による原子力産業への効果を明らかにする必要があります。そのために、新技術の導入時期や導入規模を想定し、図4-10に示すような核燃料サイクル内で取り扱われる核燃料や廃棄物の物量、及びそれらを取り扱う施設規模を明らかにすることで技術の得失を評価することが必要です。そのような評価において核燃料サイクルシミュレーターと呼ばれるプログラムが使われます。これまで、国内において汎用的なシミュレーターは公開されておらず、海外でも多くの優れたシミュレーターは非公開です。しかし、多様な機関で行われている炉形開発などの新技術を公平に評価するためには、共通のシナリオとシミュレーターを用いた解析が不可欠であり、非公開であることは大きな障害となっていました。そこで、原子力機構と東京工業大学は、高速で汎用性・柔軟性の高いシミュレーターであるNMB4.0を共同開発し、東京工業大学HP(https://nmb-code.jp)にて、2022年3月に公開しました。NMBはNuclear Material Balanceの略です。本シミュレーターは、以下のような特徴を備えています。

高速性:従来のシミュレーターでは、ウランやプルトニウムなどの20~30種類程度の核物質の原子炉内の燃焼変化を計算することが主流でした。しかし、放射性廃棄物の発生や処分を正確に評価するために、NMBでは、ウランが核分裂して生成される150種類程度の核分裂生成物の計算を可能としました。多種類の物質の燃焼変化を計算するために、高速かつ十分な精度で燃焼方程式を解く解法の開発に成功し、従来解法では数時間を要する計算が、数分で終わるようにすることができました。

汎用性:NMBでは原子力発電に関わるほぼ全ての工程を解析することができます(図4-10)。原子炉については、現代の主力炉である軽水炉のほか、将来型炉であるナトリウム冷却高速炉、ガス冷却炉、加速器駆動システムなどを解析可能なように、データベースを整備しました。

核燃料サイクルについては、他のシミュレーターではあまり含まれていない放射性廃棄物の地層処分について十分な精度の温度計算モデルと充実したデータベースを作成しました。地層処分では処分場の温度上昇が、処分場規模を計算するときに考慮することが必須ですが、多くのコードでは評価されていません。NMBでは日本で検討されている地層処分場設計に対してコード内部で温度評価が可能なデータベースを備えており、処分場規模が評価可能です。

柔軟性:我が国の原子力利用の将来像は、軽水炉リプレースの不透明さ、高速炉開発の遅れ、地層処分地選定の困難さなどにより、非常に見通しが悪くなっています。そのため、原子力利用の撤退や継続、高速炉導入時期の変化など多彩なシナリオを解析できるような設計としました。(解析例:図4-11)さらに、様々な状況に対応できるよう、パラメータを固定化することなくモデル式で記述するようにしています。例えば、高速炉の新燃料に含まれるプルトニウムの量や、放射性廃棄物をガラス固化する際に含むことのできる放射性物質の量を、放射性物質の組成に応じて評価可能とするモデル式を作成しました。

今回の公開を契機に、広くユーザー・開発者を募集しています。ユーザーとして、大学、研究所、メーカー、電力事業者などを想定し、持続的な原子力利用のために、将来型原子炉及び核燃料サイクル技術の研究開発や実装戦略の立案に役立てられることを期待します。さらには、NMBを中心としたコミュニティを醸成し、経済性や環境負荷などの評価機能の充実や、他電源を含めエネルギー分野横断的な評価研究の実現に向け研究プラットフォームの役割を果たすよう、発展を続けていきたいと考えています。

本研究は、東京工業大学との共同研究「使用済燃料再処理における放射性核種の分離および、先進的核燃料サイクルの諸量評価についての研究」(令和3年度)における成果を含みます。

(西原 健司)