4-6 ADSのための信頼性指向加速器の実現に向けて

−核変換用30 MWリニアックの堅牢なビーム光学設計−

図4-12 加速器駆動システム(ADS)のビームトリップ頻度

図4-12 加速器駆動システム(ADS)のビームトリップ頻度

2020年度のJ-PARCリニアックのビームトリップ頻度(青棒)とADSリニアックの許容できるビームトリップ頻度(ABTF、赤点線)*を示しています。J-PARCのリニアックでは、10秒未満のビームトリップは起こっていません。

 

図4-13 JAEA-ADSリニアックの構成

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図4-13 JAEA-ADSリニアックの構成

2.5 MeVから1.5 GeVまでの加速のほとんどは、超伝導セクション(HWR、スポーク及び楕円空洞)で行われます。

 

図4-14 最大水平ビーム幅

図4-14 最大水平ビーム幅

誤差のない理想的な状態(赤破線)と機器の設置誤差といった現実的な誤差を入れた状態(青点線)、及びリニアックの真空ビームダクト半径(黒実線)を示しています。現実的な誤差を考慮した場合でもビーム幅がビームダクト半径に対して十分に小さく、ビーム損失の少ない十分な性能を発揮できることを示しています。

 


原子力機構は、高レベル放射性廃棄物処分の問題に対処するために、加速器駆動システム(ADS)を開発しています。JAEA-ADSでは、30 MWの超伝導陽子線形加速器(リニアック)を用いて未臨界原子炉を駆動する核破砕中性子を生成します。ADS用リニアックには厳格な信頼性が必要です。つまり、未臨界炉心構造材の熱疲労を軽減するために、ビームが突然停止するビームトリップの頻度を厳しい規定値以下に抑える高い信頼性が必要です。図4-12は、J-PARCリニアックとJAEA-ADSリニアックに要求されるビームトリップ頻度の比較です。主な課題は、5分以上のビームトリップ頻度の低減です。10秒〜5分のビームトリップ頻度は許容可能なビームトリップ頻度(ABTF)に近く、10秒以下のビームトリップは起こっていません。そのため、JAEA-ADSリニアックでは、信頼性を高めてABTF以下で動作する設計を目指しました。その第一歩として、長い運転停止につながる超伝導加速部でのビーム損失によって引き起こされるビームトリップ頻度を減らし、許容可能なビーム損失で安定したビーム運転を可能にする設計を追求しました。

JAEA-ADSリニアックは、図4-13に示すように、常伝導及び超伝導高周波加速空洞を用いて、ビーム電流20 mAの陽子ビームを1.5 GeVの最終エネルギーに加速します。設計の鍵となる高い加速効率を実現するため、超伝導高周波空洞の最新技術を取り入れて設計を行いました。JAEA-ADSリニアックは、他のADS計画の加速器よりも高いビーム電流で運転するため、ビーム粒子間に働くクーロン反発力により横方向のビーム幅の増大、そしてビーム損失の増加をもたらします。したがって、電磁石による収束力や加速空洞による発散力といった外部の力と、粒子間の発散力との適切なバランスをとることにより効率的にビームを制御できるよう、リニアック構成機器のパラメータを定めました。

多数の陽子(1×108)を使用したシミュレーションにより設計を最適化し、誤差のない理想的な状態と、機器の設置誤差といった現実的な誤差を入れた状態ともに、人の手による保守作業が可能とされるビーム損失量に対して二桁低いビーム損失を実現しました。図4-14は、誤差のない理想的な場合と、ランダムな設置誤差及び電磁石印加電圧のふらつきを考慮した1000以上の場合についての、シミュレーションから得られたビーム軸に水平方向の最大ビーム幅を示しています。その結果、ビームは良く制御され、ビーム損失は許容可能な量を十分に下回りました。以上により、JAEA-ADS用の信頼性指向加速器の実現に向けた堅牢なリニアック設計を得ることができました。

(Bruce Yee-Rendon)

 

* 近藤恭弘, Yee-Rendon, B.ほか, ADS用超伝導リニアックの研究開発, プラズマ・核融合学会誌, vol.98, no.5, 2022, p.222-226.