7-2 高速炉事故時に生じるエアロゾルの挙動を把握する

−多セル区画実験装置を用いたエアロゾル移行挙動実験−

図7-5 多セル区画実験装置(MET)

図7-5 多セル区画実験装置(MET)

Na燃焼時の自然対流条件を模擬した実験施設で、Na燃焼時に発生するNa酸化物エアロゾルを模擬したシリカ微粒子を使用することでエアロゾルの移行を観察することができます。

 

図7-6 模擬エアロゾルの可視化実験結果例

図7-6 模擬エアロゾルの可視化実験結果例

模擬エアロゾルが基準セル内に充満した後、隣接するセルに流れ込みます。レーザー照射範囲では、より鮮明に模擬エアロゾルが映し出されています。

 


高速炉では、高い冷却性能を有するナトリウム(Na)を冷却材として使用します。一方、Naは化学的に活性で、漏えいして空気に触れると燃焼します(Na燃焼)。燃焼により生成したNa酸化物のエアロゾルが空調用ダクト等を介して隣接する部屋(セル)に移行した場合、人体へ悪影響を及ぼしたり、制御機器等の故障によりプラントの運転に支障を来したりする可能性があります。これまでのNa燃焼試験の多くは単一セルを対象に実施されてきたため、隣接セルへのエアロゾル移行挙動の評価に対する実験的知見は十分ではありません。

そこで、エアロゾルのセル間の基本的な移行挙動を把握するために、多セル区画実験装置(Multiple cells with Expandable connecting pipe Test:MET)を開発しました(図7-5)。METは三つのセルとこれらを接続する種々な形状のアクリル製の管(接続管)で構成されています。セルは、Na燃焼時での自然対流条件と相似となるように一辺が2.7 mの立方体で設計し、各面は光学計測(カメラやレーザー)のためのアクリルパネルとレーザーの反射を抑制するコーティングが施されたアルミパネルで構成しました。また、接続管の等価断面積がエアロゾルの振る舞いに与える影響を把握するため、各パネルは容易に脱着が可能な構造として、光学計測や接続管の等価断面積を任意に設定できるようにしました。本実験では、実際にNaを燃焼させる代わりにNa酸化物の初期粒径と密度を模擬したシリカ(SiO2)の微粒子を用い、これをブラシで巻き上げて圧縮空気にて上昇させることでエアロゾルの発生を模擬するエアロゾルジェネレータを新たに考案し、模擬エアロゾルを底面からセル内へ導入しています。

図7-6は、図7-5のうち、基準セルと水平セルを配置した試験体系での結果です。模擬エアロゾルの移行挙動をカメラで観察し、接続管には可視化用レーザーを照射してより鮮明な画像を得る工夫をしました。なお、本試験では、水平セルの排気ダクトを解放して系統内を均圧にした基本的条件の下で実施しました。図7-6(a)は、模擬エアロゾルを供給するセル(基準セル)内での移行挙動を示しており、時間経過に伴い、基準セル内で模擬エアロゾルが上方へ移行し、上方からセル全体に充満していく様子が分かります。さらに時間が経過すると、図7-6(b)に示すように、模擬エアロゾルが接続管を通って隣接するセル(水平セル)に流れ込む様子が観察できます。また、二つのセルを垂直に配置した試験体系においても、水平配置時と同様に模擬エアロゾルが基準セルに充満し、基準セルから隣接するセル(垂直セル)に流れ込む挙動を確認しています。さらに、可視化観察を補強するため、試験後に各セルの床面に沈降した模擬エアロゾルの分布と質量を測定し、基準セル及び隣接する水平若しくは垂直セルに沈降した模擬エアロゾル量の平面分布評価に資する基本的なデータを取得しました。

以上の結果から、METを用いて各セルや接続管内の模擬エアロゾルの移行を可視化し、模擬エアロゾルの基本的な移行挙動を把握することができました。今後は本成果を評価手法の検証に反映することで、Na燃焼時のNa酸化物エアロゾルの移行挙動解明の一助となることが期待されます。

本研究は、文部科学省からの受託事業「革新的ナトリウム冷却高速炉におけるマルチレベル・マルチシナリオプラントシミュレーションシステム技術の研究開発」の成果の一部です。

(梅田 良太)