8-2 安全な保管に向けた核燃料物質の処理方法の確立

−有機物含有核燃料物質の安定化処理−

図8-7 有機物含有核燃料物質の示差熱分析結果

図8-7 有機物含有核燃料物質の示差熱分析結果

高純度Ar雰囲気(酸素濃度約2000 ppm)条件にて750 ℃まで5 ℃/minで昇温しました。示差熱変化(DTA曲線)から750 ℃までの昇温過程において異常発熱の原因となり得る発熱ピークは観察されませんでした。

 

図8-8 有機物含有核燃料物質の安定化処理時の外観変化 

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図8-8 有機物含有核燃料物質の安定化処理時の外観変化 

(a) 熱処理工程前外観、(b) 200 ℃熱処理後の外観、(c) 700 ℃熱処理後の外観を示します。熱処理工程を進めるにつれ当該有機物含有核燃料物質の外観が薄茶褐色から淡緑色へ変化している様子が分かります。また、熱処理後、初期重量104.34 gから70%程減少しており、外観からは体積が減少していることが分かります。

 


核燃料サイクル工学研究所では、老朽化した原子力施設の計画的な廃止措置を進めています。廃止措置対象施設の一つであるB棟は、建設から60年以上経過しており、施設内の核燃料物質の払出しが進められ、その一部として有機物含有核燃料物質を高レベル放射性物質研究施設(CPF)で受け入れました。しかし、貯蔵中に有機物の放射線分解によると思われるガスが発生し、収納袋が徐々に膨らむという問題が発生してしまいました。当初は膨らむ度に収納袋を交換するといった対処療法的な対応を行っていましたが、抜本的な解決を目指し、当該核燃料物質をガスの発生しない安定した状態へ処理することを目指し検討を始めました。

ガスが発生しない状態とするまでの安定化処理方法を検討するためにγ線スペクトロメトリー、元素分析、質量分析を実施し核燃料物質の性状を調査し、当該有機物含有核燃料物質には想定どおりガス発生への寄与が大きいα線核種が多く含まれていることを確認しました。一方、分析のために試料の溶解作業を実施した結果、試料は難溶性であり、溶解に多くの硝酸溶液を必要とすることも分かりました。通常の核燃料再処理と同様に、有機溶媒を用いて放射性核種を分離後、脱硝転換による処理方法を想定した場合、当該核燃料物質104.34 gに対し最低でも、硝酸溶液が50 L、有機溶媒は20 L以上が必要と評価され、処理時に廃液、廃溶媒が多量に発生する本手法は施設への負荷が非常に大きいことが分かりました。

そこで代替法として加熱による安定化処理を検討することとし、当該核燃料物質を加熱した際の安全性を確認するため少量の試料で示差熱分析を実施しました。図8-7に示すとおり、750 ℃までの昇温過程において異常発熱の原因となり得る発熱ピークは発生せず、熱処理中に発火や発熱といった火災の原因となり得る事象は発生しないことが分かります。また、模擬試料の示差熱分析結果との比較により当該核燃料物質に含まれる有機物がイオン交換樹脂である可能性が高いことも明らかになりました。この樹脂は750 ℃までの昇温で完全分解が可能であると報告されており、加熱が有効な処理方法であると裏付けられました。

上記の結果を踏まえ、当該核燃料物質全量に対して熱処理を実施しました。処理条件は安全を考慮した段階的なものとし、200 ℃(1 h) → 400 ℃(1 h) → 700 ℃(20 min)の手順となります。処理後は、図8-8に示す各工程の外観からも分かるとおり体積が減少しており、重量においても104.34 gから34.22 gへ大きく減少しました。この結果より、含まれていた有機物が分解されたと判断することができます。

当該核燃料物質は、熱処理後、2020年10月19日に収納袋へ収納・保管しました。保管中は毎月点検を実施し、2022年5月17日現在で収納袋の膨張がないことから、ガスが発生しない状態であることを確認しています。

本成果は、同様な有機物含有核燃料物質を長期的かつ安全に保管する安定化処理方法であり、種々の原子力施設の廃止措置の際に性状不明な核燃料物質の処理検討に役立ちます。

(多田 康平)