8-3 有害物質を含む放射性廃棄物の安定固化に向けて

−アルカリ活性材料で固化処理された鉛の保持機構の解明−

図8-9 固化試料の主要構造であるケイ素と酸素の化学結合状態の変化

図8-9 固化試料の主要構造であるケイ素と酸素の化学結合状態の変化

ラマン分光分析で得られたスペクトルから、鉛の混合率が増加することにより、ケイ素と酸素の結合状態が変化(1000 cm-1付近のピークがシフト)し、鉛が構造中に取り込まれていることが分かりました。

 

図8-10 固化試料からの鉛の溶出のしやすさ

図8-10 固化試料からの鉛の溶出のしやすさ

混合した鉛の75%以上が難溶性として存在し、溶出しにくい形態をとっていることが分かりました。

 


原子力施設では遮蔽材としての鉛が広く利用されています。鉛は、産業廃棄物において有害物質に指定されており、廃棄する際の有害物質の溶出量には規制が設けられています。放射性廃棄物に含まれる有害物質に関する規制はまだありませんが、放射性廃棄物の基準に加えて、有害物質を含む産業廃棄物に求められる基準も満たす廃棄体を作製する技術を開発することで、処分した際の環境負荷を低減できると考えています。

私たちは、このような有害物質と放射性物質を同時に含む低レベル放射性廃棄物の安定固化に向けて、一般的な固化材料のセメントをはじめとした様々な固化材料を用い、廃棄体の中に有害物質を閉じ込める処理技術の開発に取り組んでいます。候補材料の一つであるアルカリ活性材料は、セメントとは異なるメカニズムで硬化し、ケイ素とアルミニウムが主成分の非晶質の無機固化材料で、陽イオンの閉じ込め性能を有することが知られています。今回は、アルカリ活性材料の適用性の評価に向けて、原子力施設で広く利用されている鉛を対象に、アルカリ活性材料で固化された鉛の存在形態を調査しました。その結果、鉛が非晶質構造の一部として取り込まれていることを明らかにしました。

アルカリ活性材料固化試料は化学試薬を用いて作製し、固化試料中に0.7、1.5、3.7mass%の鉛が含まれるように塩化鉛を混合しました。固化試料を対象としたラマン分光分析の結果から、鉛の添加量の増加に伴い、ケイ素と酸素の結合状態が変化しており(図8-9)、さらにX線回折分析や熱重量示差熱分析などを行った結果、鉛がアルカリ活性材料の骨格の一部に取り込まれていることが分かりました。また、水溶液の酸の強さを段階的に変えた溶出試験を実施し、固化試料から水溶液への鉛の溶出のしやすさを調査した結果、75%以上の鉛は難溶性として存在していました(図8-10)。水溶性の鉛は1%未満となりほとんど存在せず、残りは酸可溶性の鉛として存在していました。以上の結果から、アルカリ活性材料において鉛は、非晶質構造の一部として取り込まれ、容易に溶出しない形態になっていることが分かりました。この技術を適用することにより、有害物質の閉じ込め性に優れた固化処理技術を開発できる可能性が見い出されました。

得られた成果をもとに、アルカリ活性材料の有害物質の閉じ込め性に関する理解を深めて適用性の評価を進め、有害物質を含む放射性廃棄物を安定固化可能な処理技術の開発に取り組んでいきます。

本研究は、京都大学との共同研究「有害物質を含む廃棄物の処理及び廃棄体の経時変化に関する共同研究」(平成31年度)で実施されたものです。

(佐藤 淳也)