8-4 鋼材表面塗装膜の除去技術

−レーザークリーニング技術の表面物質分離性能評価−

図8-11 大気雰囲気中における鉄(Fe)とウラン化合物(U<sub>3</sub>O<sub>8</sub>)の熱力学解析結果

図8-11 大気雰囲気中における鉄(Fe)とウラン化合物(U3O8)の熱力学解析結果

縦軸は物質量(mol)、横軸は温度(℃)を示します。ウラン(U)は958 ℃付近で気化するのに対して鉄(Fe)は1480 ℃付近で部分的に液化しました。

 

図8-12 酸化セリウム塗布試験の照射前後の蛍光X線スペクトル

図8-12 酸化セリウム塗布試験の照射前後の蛍光X線スペクトル

縦軸に強度、横軸にエネルギーを示します。照射前(青)には明確に存在したセリウム(Ce)のピークが、照射後(赤)には観察されなくなりました。

 

図8-13 レーザー照射時の塗装膜飛散挙動

図8-13 レーザー照射時の塗装膜飛散挙動

鋼材表面に対して照射角度が変わっても垂直方向に飛散します。

 


人形峠環境技術センターの設備解体撤去に伴い約13万トンの廃棄物が発生し、そのうち放射性物質によって汚染されていない廃棄物(Non Radioactive waste: NR)となる非放射性廃棄物は約80%あると見込まれています。NR 対象となる鋼材の一部は表面の塗装膜が汚染された可能性を否定できないものがあります。現在、これらの塗装膜をグラインダー等の回転研磨工具により除去していますが、粉塵の飛散や吸入防止のためのグリーンハウスの設置や重装備が必要です。

本研究で着目したレーザークリーニング技術は、建設現場等で使用される表面除去技術であり、対象物を隔離したまま表面除去が可能であるため、粉塵対策の重装備が不要となり、作業者の負担軽減、二次廃棄物の低減が期待できます。しかしながら、高温環境下におけるウランと鋼材の反応性や分離物の回収方法が未確立であり、ウランが付着した鋼材に適応した例はありません。

そこで本研究では、ウラン付着塗装膜へのレーザー分離技術の適応性の検証として、高温環境下におけるウランと鋼材の反応性評価、粉体分離性能評価及び分離物の飛散方向の評価を実施しました。

塗装膜表面に付着したウランはレーザー照射により溶融した鋼材に取り込まれる恐れがあるため、鉄、ウラン共存時の高温環境下における熱力学解析からウランと鋼材の反応性評価を実施しました。その結果、図8-11のように、大気雰囲気において温度上昇させた場合、ウラン化合物の沸点は鋼材の液化温度より低く、先に気化するため、鋼材に取り込まれる可能性は低いことが明らかとなりました。

また、塗膜に付着した粉体の反応挙動評価を目的に、酸化ウランと同様の結晶構造(蛍石構造)を示す酸化セリウムを用いて粉体付着模擬試料を作製し、レーザーを照射しました。その結果、図8-12のように照射後、セリウムのピークは検出されなくなり、さらに、照射前はあまり検出されなかった鉄、クロム等の鋼材成分が多く検出されました。そのため、塗装膜に付着したウランの粉体はレーザー照射により共に分離・除去できる可能性が高いことが分かりました。

また、分離物の飛散状況の評価として、高速度カメラを用いて塗装膜飛散挙動を撮影しました。その結果、図8-13のように飛散物はレーザーの照射角度に依存することなく、鋼材面より垂直方向に多く飛散しました。よって照射面に対して垂直方向から吸引することで効率的に飛散塗装膜の回収ができるとみられます。また、高速度カメラによる温度解析の結果、レーザー照射時の鋼材周辺はウラン化合物の気相生成温度を超えることを確認しました。

以上のことから、本技術はウランが付着する鋼材塗装膜に対しても塗装膜とともにウランの分離が期待できます。今後ウランが付着した実鋼材にて持出基準レベルまでの除染試験を実施する予定です。

(山根 いくみ)