図8-14 「ウラン濃縮研究棟」1階平面図
図8-15 大型のグリーンハウスの設置
図8-16 廃止措置前後の大実験室内の様子
原子力科学研究所の「ウラン濃縮研究棟」は、1972年に竣工し、1998年度までウラン濃縮に関する研究に用いていた施設です。その後、使用を終了した設備の撤去など行いつつ維持管理をしていましたが、施設中長期計画に従い、2019年度に残存していた施設の解体、除染を行い、管理区域を解除して廃止措置を完了しました。
本施設は、建家内の非管理区域にある大実験室と呼ばれる吹き抜けの部屋(約420 m2)に、独立した鉄骨構造の部屋を設け、その一部を管理区域(約182 m2)としていました。平面図を図8-14に示します。
本施設では、1989年に発煙事象、1997年に火災事故が発生し、管理区域内にウランによる汚染が拡散しました。廃止措置の事前調査では、その際の残存汚染が床と壁面の境目等にも確認されました。このため、原子力科学研究所において過去に実績のある「管理区域である部屋内部の壁や床の汚染を完全に除去して管理区域を解除する工法」を採らずに、「部屋を全て解体撤去する工法」を採用しました。本工事では、汚染が広がった管理区域を区画する壁や天井を丸ごと解体するため、解体工事中に管理区域から非管理区域に汚染が漏えいするのを完全に防ぐ必要があります。汚染拡大防止措置については、管理区域の部屋が設置された大実験室全域を一時的な管理区域として汚染拡大を防ぐ方法も検討しましたが、管理区域解除時に要する汚染検査の労力が膨大となるため、解体する部屋全体を覆う大型のグリーンハウス(図8-15)を設置し、管理区域の部屋を慎重に解体する方法を用いました。また、床面は汚染の飛散を防止するため汚染箇所の粘着シートによる固定を行ったうえで床材剥離を実施し、汚染の残存するコンクリート面のはつりは、作業場所ごとに部分的なグリーンハウスを設置して集塵機能付きの電動工具を用いて行いました。
本施設の廃止措置においては、部屋の解体のほか、管理区域内外の設備(フード1基、核燃料保管庫4基、放射性廃棄物保管容器1基、放射性廃液貯槽4基、排水配管、排気フィルタユニット、排気ダクト等)を解体撤去しました。
「ウラン濃縮研究棟」の廃止措置は、汚染拡大防止措置、火災防止対策など安全に配慮して作業を遂行し、計画どおり2019年度に管理区域の解除を無災害で達成しました(図8-16)。管理区域の解除後の建家は、一般施設として利用しています。本施設の廃止措置により得られた知見は、除染が困難な汚染が残存する施設の安全な廃止措置の遂行に活かせるものと考えています。
(石仙 順也)