2-1 炉心損傷事故対策による発生頻度低減効果の評価

−高速炉の出力運転時における確率論的リスク評価の適用−

図1 高速実験炉の安全確保に係る主な設備の概要

図1 高速実験炉の安全確保に係る主な設備の概要

異常発生時には制御棒の落下挿入により原子炉が停止し、主冷却系(2次系)のポンプ及び送風機は停止して自然循環モードに移行し、主冷却系(1次系)のポンプは低速運転に切り替わり、崩壊熱除去が開始されます。主冷却系(1次系)のポンプの機能喪失時には補助冷却系が自動起動します。

 

図2 対策の有無による各事象の発生頻度の低減効果

図2 対策の有無による各事象の発生頻度の低減効果

炉心損傷に至る事象の発生頻度は、設計基準を超える事故への対策を講じることによってどれも桁違いに低減することを示しています。

 


東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子炉施設においては設計での想定を超える事故として炉心損傷に至る恐れがある事故の対策を実施することが求められています。事故に至る様々な異常や故障等の組合せ(以下、事象)を想定した上で効果的な対策を検討します。対策の効果を測る指標として事故の発生頻度があり、対策の導入前後で事故の発生頻度をどの程度低減できるのかを、確率論的リスク評価(PRA)を適用して定量的に評価することが重要です。

本研究の目的は、原子力機構が開発して運転経験を有する高速実験炉の出力運転時を対象に、設計での想定を超える事故の対策の効果を定量的に評価することです。評価対象は図1の設備から構成され、通常時に炉心で生じる熱を主冷却系の空気冷却器によって除去しています。また、外部電源喪失や原子炉冷却材漏えいなど、異常(起因事象)が発生した場合には原子炉が自動停止し、原子炉容器内の液位がリークジャケットなどの静的機器によって確保され、主冷却系を用いた強制循環または自然循環によって炉内の崩壊熱が除去され、安全停止に至るという特徴を有します。主冷却系機能喪失時には補助冷却系による崩壊熱除去が可能です。

本研究では、最初に対策を講じる前の評価対象へPRAを適用することによって、炉心損傷に至る事象を網羅的に抽出するとともに、分類した上で発生頻度を定量化しました(図2)。その結果を踏まえて、機器のバックアップ、電源を必要としない主冷却系の自然循環等の対策が評価対象施設において考案された後、本研究では対策を講じた評価対象に再びPRAを適用し、事象の発生頻度を定量化しました。その際に用いられる機器故障率は、日米の高速炉施設における機器の運転・故障経験を収録する、原子力機構が開発した高速炉機器信頼性データベースCORDSを用いるとともに、評価対象施設における固有の運転・故障経験が適切に反映されるよう考慮しました。

その結果、図2に示す通り、設計での想定を超える事故の対策によってULOF〜SBOの発生頻度の合計値が3桁程度低減することが分かりました。また、対策の有無に依らず、発生頻度が最も高い事象は崩壊熱除去機能喪失になりました。内訳を詳細に分析すると、対策がない場合に外部電源喪失、かつ主冷却系等の強制循環に失敗する事象の発生頻度が最も高いことが分かりました。一方、主冷却系(1次系)の自然循環等の対策を考慮した場合にはこの事象の発生頻度は3桁程度低くなり、頻度を低減する効果的な対策であることが分かりました。

出力運転時における対策の効果を把握できたことから、今後は原子炉停止時における炉心損傷に至る事象の特定、及びその発生頻度を評価する予定です。

(西野 裕之)