図1 原子炉容器内での受皿構造による溶融炉心物質の保持概念
図2 ナトリウム中を落下する溶融ステンレス鋼のX線画像
次世代の革新的な原子炉の一つとして期待されているナトリウム冷却高速炉を実用化するためには、その安全性をより一層高める必要があります。そのため、炉心燃料が溶け落ちるシビアアクシデントが発生しても、その影響が原子炉容器外へ及ぶことがないよう、溶融炉心物質を原子炉容器内で冷やし閉じ込めること(炉容器内保持)が重要です。
シビアアクシデント時に溶融炉心物質が原子炉容器の底部まで落下すると、溶融炉心物質の高熱によって底部に穴が空き、溶融炉心物質は原子炉容器の外へ漏れ出る可能性があります。これを防止するために、底部に向かって落下する溶融炉心物質を原子炉容器内の受皿構造で受け止める安全対策が検討されています(図1)。このような安全対策が有効に機能することを確認するため、これまでに溶融炉心物質と冷却材ナトリウムの模擬物質としてそれぞれ低融点金属の溶融物と水を用いた基礎的な試験を行い、ナトリウム中を落下する溶融炉心物質は粒子状に固まって沈降し、受皿構造上に堆積する可能性が高いことを明らかにしました。その一方で、基礎的な試験で明らかにした溶融炉心物質の挙動を実際の原子炉内の環境に近い条件で確認することが重要な課題となっています。
本研究では、ナトリウム冷却高速炉の炉心構成材料の一つであり、溶融炉心物質の主成分でもあるステンレス鋼の溶融物を試験容器内のナトリウム中に落下させ、X線装置と高速度カメラを用いて高速撮影する世界初の可視化試験を行いました。
図2は、ステンレス鋼の溶融物がナトリウム中を落下しながら急速に破砕される様子です。この実験後、試験容器の底部に堆積したステンレス鋼の固化物を観察した結果、溶融物がナトリウム中に落下すると、溶融物の内部に少量のナトリウムが取り込まれ、このナトリウムが蒸気となって膨張する際に、その周囲の溶融物が短時間のうちに破砕され、粒子状になっていることが分かりました。さらに、ナトリウム中に設置した複数の温度計の応答から、溶融物は破砕された後、ナトリウムによって急速に冷やされて固まったことを確認しました。
本研究は、ナトリウムの高い熱伝導性が原子炉の通常運転時における炉心燃料の冷却だけでなく、溶融炉心物質の冷却にも効果的であることを示すとともに、炉容器内保持を達成するための安全対策の有効性確認に大きく貢献するものです。
本成果は、経済産業省からの受託事業「令和2年度高速炉に係る共通基盤のための技術開発」の一環として実施した成果の一部です。
(松場 賢一)