2 高速炉研究開発

高速炉サイクルの研究開発基盤の整備

図1 SmART(Small Amount of Reused Fuel Test)サイクル研究

図1 SmART(Small Amount of Reused Fuel Test)サイクル研究

照射済燃料からマイナーアクチノイド(MA)を分離し、MA含有燃料として再び「常陽」で照射することで、閉じたサイクル内での高速炉を用いたMAの分離・核変換を実証し、廃棄物減容・有害度低減に大きく貢献します。

 


高速炉及びこれに対応した燃料サイクル(高速炉サイクル)は、世界のエネルギー需要への対応と地球環境の保全を両立するために期待される、持続的エネルギー供給システムです。ウラン資源の大部分を有効利用することにより、千年を超える長期にわたってエネルギーを供給できる技術であり、半減期が長いマイナーアクチノイド(MA)を核変換することで、地層処分に供するガラス固化体の発熱や放射性毒性を大きく低減することができる特長を有しています。2022年12月に国の原子力関係閣僚会議にて改訂された「戦略ロードマップ」においても、高速炉を活用することで、原子力の最重要課題の一つである放射性廃棄物の問題に対処し、原子力全体を循環型エネルギーとすることが可能とされています。高速炉開発の意義・多様化する社会ニーズを踏まえた開発目標としては、「安全性・信頼性」、「経済性」、「環境負荷低減性」、「資源有効利用性」、「核拡散抵抗性」、「柔軟性・その他市場性」が掲げられており、原子力機構には高速炉サイクル技術開発における中心的役割が期待されています。また、ハード・ソフト両面での技術開発基盤の整備、原子力分野の人材育成への貢献も求められています。

そこで、原子力機構では、国の戦略ロードマップに則り研究開発方針を策定し、それに基づき高速炉・新型炉研究開発部門では、国内外の最先端の技術を取り入れた先進的設計評価・支援手法、安全性向上技術、放射性廃棄物の減容化・有害度低減や高速炉の経済性向上に向けた技術、燃料製造・再処理等の燃料サイクル技術の開発、安全基準及び規格基準の開発と標準化等に取り組んでいます。図1に示すSmART(Small Amount of Reused Fuel Test)サイクル研究は、照射済燃料からマイナーアクチノイド(MA)を分離・回収し、燃料として再利用することを目的としたもので、これまでにMAの分離・回収までを完了しています。現在、照射燃料試験施設では燃料製造に向けて、燃料製造設備の健全性確認や燃料模擬物質を用いた燃料ペレット焼結条件の検討を行っているほか、照射試験用燃料の作製に係る許認可を見据えて、燃料設計の基盤データとなるMA含有燃料の熱物性評価を進めています。

本章では、原子力機構が実施している最新の研究開発の中から、いくつかの成果について紹介いたします。

「炉心損傷事故対策による発生頻度低減効果の評価(トピックス2-1)」では、確率論的リスク評価を適用して設計での想定を超えた事故対策の効果を評価し、炉心損傷に至る事象の発生頻度が3桁程度低減することが分かりました。

「溶融炉心物質を原子炉容器内で冷やし閉じ込める(トピックス2-2)」は、溶融したステンレス鋼をナトリウム中に落下させ、X線装置と高速度カメラを用いて可視化した世界初の試験についての内容です。溶融炉心物質の炉容器内保持を達成するための安全対策の有効性確認に大きく貢献します。

「高速炉プラント全体の熱流動挙動を精度良く予測する(トピックス2-3)」は、1次元プラント動特性解析コードと3次元詳細解析コードを連成させた手法で、計算負荷を抑えつつ、これまで困難だった温度成層化等の複雑な熱流動解析が可能になりました。これは、プラント全体の挙動をまるごと解析できる仮想プラントの実現につながります。

「高速炉用ラッパ管への異材溶接の適用を目指して(トピックス2-4)」では、燃料集合体のラッパ管材であるフェライト/マルテンサイト鋼とハンドリングヘッド等のSUS316を接合する電子ビーム異材溶接部について、マクロな強度試験だけでなく、微細構造解析を行っており、実機において高温長時間環境にさらされるラッパ管に異材溶接技術を適用できる見通しを得ました。

「高速炉の遮蔽設計の合理化に向けて(トピックス2-5)」では、「もんじゅ」で実施されたナトリウム放射化量評価試験について、最新の知見に基づいた測定値の再評価や再現解析の高度化により、解析値と測定値間の不一致を低減しており、高速炉遮蔽設計の合理化につながります。