2-5 高速炉の遮蔽設計の合理化に向けて

−最新の知見に基づいた「もんじゅ」ナトリウム放射化量の評価−

図1 出力履歴と測定タイミング、放射化量の推移

図1 出力履歴と測定タイミング、放射化量の推移

測定(ナトリウム採取)は計5回実施されています。図2で実施順にCase1〜5と表記します。半減期の短い24Naは出力上昇に追従し、半減期の長い22Naは出力運転とともに蓄積していきます。グラフ下段の実線は解析値、プロット点は測定のタイミングを示します。

 

図2 ナトリウム放射化量の解析値と測定値の比較

図2 ナトリウム放射化量の解析値と測定値の比較

測定値と解析値の見直しにより両者の差が、24Naで解消(測定誤差内で一致)し、22Naで約10%程度にまで改善しました。

 


高速炉の設計手法や核データの妥当性確認に資するために、「もんじゅ」性能試験のデータベース化とその信頼性・有用性向上に取り組んでいます。

高速炉の冷却材に使用されるナトリウムは、原子炉運転中に中性子と反応することで放射化します。具体的には、23Na(n,γ)反応で24Na(半減期約15時間)、23Na(n, 2n)反応で22Na(半減期約2.6年)が生成されます。24Naは生成量が多く、遮蔽設計における原子炉運転中の主たるγ線源になり、格納容器内の壁厚や部屋の配置に影響します。22Naは半減期が長いため、原子炉停止中における点検やメンテナンス時の作業員被ばく等に影響します。「もんじゅ」設計時にはそれらの生成量(ナトリウム放射化量)の検証データが限定的であり、設計裕度としてファクター2.0が考慮されていました。

1995年の「もんじゅ」性能試験において、出力運転中にナトリウム放射化量の測定が実施されています(図1)。測定では、1次冷却系から採取したナトリウムのγ線を計測することで比放射能(Bq/g)が得られています。これに1次冷却系中のナトリウムの総量を乗じることで放射化量(Bq)が評価できます。この放射化量を解析値と比較することで予測精度が検証できますが、過去の評価では図2に示すように、測定と解析の間に40%を超える不一致がありました。本研究では、その妥当性を測定値・解析値の両面から検討しました。測定データの精査や解析条件の見直しを進める中で、γ線の検出効率についてはその算出根拠となるデータが残されておらず、再評価することができませんでした。

半減期の長い22Naは廃止措置に移行した現在の「もんじゅ」でも検出できます。そこで、γ線の検出効率とともに現時点の22Na放射化量を測定し、放射能の時間減衰を遡る形で試験時の放射化量を評価することとしました。解析についても核データライブラリにJENDL-4.0を用い、炉心計算に3次元体系での輸送計算を取り入れるなど手法を高度化するとともに、試験時の出力履歴を可能な限り詳細に反映しました。これらの結果、測定値と解析値の差が改善することを確認しました(図2)。22Naについては、解析に22Na自身の中性子吸収効果を取り入れることでさらに改善し、測定誤差の範囲内で一致する見通しを得ました。

本研究により、信頼性の高いナトリウム放射化量の試験データを整備することができました。現状の解析精度は良好であり、ナトリウム冷却高速炉でのナトリウム放射化量をファクター1.1程度で評価できる可能性を見いだしました。高速炉遮蔽設計の合理化につながる成果と言えます。

(毛利 哲也)