3 先端原子力科学研究

新原子力の実現に向けた基礎研究

図1 先端原子力科学研究

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図1 先端原子力科学研究

将来の新原子力の実現に向けて、新原理・新現象の発見、新物質・新材料の創製、革新的技術の創出を目指し、学術的に高いインパクトを持った世界最先端の研究を推進しています。原子力機構内及び国内外の研究機関との連携により、研究体制を強化します。

 


先端基礎研究センターでは、原子力機構の将来ビジョン「JAEA 2050 +」に掲げる新原子力の実現へ向けて、先端原子力科学分野の基礎研究を強化し、新原理・新現象の発見、新物質・新材料の創製、革新的技術の創出などを目指します。その中で、他分野との積極的な融合と原子力科学技術を通じたイノベーションを加速するとともに、国際的な競争力を高めることにより優秀な研究人材を集約し、原子力基礎科学分野におけるCOEとしての役割を確立します。

先端基礎研究センターは、@『原子力先端核科学』、A『原子力先端材料科学』、及びこれらを有機的に結びつけるB『先端理論物理』の分野で組織しています(図1)。@は、極限重元素核科学研究、ハドロン原子核物理研究、及び強相関アクチノイド科学研究で、またAは、スピン-エネルギー科学研究、表面界面科学研究、及び耐環境性機能材料科学研究で構成されます。以下、2022年度の主な成果をハイライトします。

『原子力先端核科学』の「極限重元素核科学研究」では、長寿命マイナーアクチノイドの核変換や超重元素の存在領域を調べる研究を進めています。このための原子核構造研究では、重イオン核反応によって生成される様々なアクチノイド原子核をオンラインで分析し、γ線核分光によって原子核の様々な量子状態を決定する手法を開発し、未開拓原子核の構造研究を可能にしました(トピックス3-1)。「ハドロン原子核物理研究」では、原子核を構成する力の源である核力を理解するため、陽子や中性子が近づいた際に発生する斥力の解明に進展がありました。J-PARCにおいてΣ+粒子を生成し、これと陽子との散乱実験を行うことで、核力の起源としてクォークパウリ効果が影響していることが示唆されました(トピックス3-2)。「強相関アクチノイド科学研究」では、送電・蓄電技術や量子コンピュータへの応用につながるウラン化合物の超伝導現象を調べています。近年、ウランテルル化物(UTe2)に注目が集まっていますが、良い単結晶を作ることが困難となっていました。本研究ではUTe2を塩化物に混ぜ、高温状態で結晶を育成させることで、結晶中の欠陥が少ない純良な結晶の生成に成功しました。今後、超伝導研究が加速されます(トピックス3-3)。

『原子力先端材料科学』の「スピン-エネルギー科学研究」では、水中や固体での信号伝達において、電磁波よりも伝わりやすい音波に着目し、これを高感度で検出する理論研究を行いました。低温において結晶が一定の周期で歪むと、同じ周期で電子密度の変化が起き、これは試料にかける電圧と電流の特性となって観測されます。この特性は、音波がある場合と無い場合で顕著に違うことを発見し、音波検知器の原理を確立しました(トピックス3-4)。「表面界面科学研究」では、水素イオンと重水素イオンが、たった1層のグラフェンを通るトンネル効果が顕著に違うことを実験的に発見しました。今後、産業やエネルギー分野で活用が期待される重水素の濃縮技術に道を拓きます(トピックス3-5)。「耐環境性機能材料科学研究」では、ハードディスクドライブの磁気ヘッドや磁気メモリなどに活用され、放射線耐性が強いことが期待されているトンネル磁気抵抗素子の性能を向上させる開発を行っています。薄膜にすることで高速・大容量の磁気メモリが可能となりますが、このため、研究では異なる材料をミクロな厚さで積層させることでトンネル磁気抵抗効果を従来に比べて格段に向上させることに成功しました(トピックス3-6)。

『先端理論物理研究』では、小型で軽量な磁気デバイスを開発するための小さな磁石材料に現れる現象を調べました。磁石にはマグノンと呼ばれる粒子が存在しますが、磁石を薄くすると、マグノンのエネルギー準位状態が少なくなり、ゼロ点エネルギーが出現することが分かりました。カシミール効果のマグノン版と言え、磁石の磁気の強さが変わることから、磁気の強さを制御するカシミアエンジニアリングと呼ばれる分野が拓かれると期待されます(トピックス3-7)。