3-3 ウラン化合物超伝導体の純良化に成功

−ウラン系超伝導の機構解明に寄与する−

図1 溶融塩フラックス法による超伝導UTe2単結晶育成法

図1 溶融塩フラックス法による超伝導UTe2単結晶育成法

最初にウランを少し過剰に仕込むのがポイントで、黒鉛容器に入れて、石英管に真空封入して熱処理します。その後、取り出して、塩は水に溶かして、UTe2単結晶を取り出します。

 

図2 いくつかのUTe2試料に対する抵抗率比の温度依存性

図2 いくつかのUTe2試料に対する抵抗率比の温度依存性

従来法で育成した単結晶はわずかな元素欠損で超伝導にならないか、超伝導転移温度が低いのですが、溶融塩フラックス法によって、超伝導転移温度は上昇し、結晶品質を示す残留抵抗率比が大きくなりました。

 


超伝導は、物質の電気抵抗がゼロとなる現象です。送電や蓄電、強力な電磁石などへの応用は、省エネルギー社会に欠かせません。最近は、量子コンピュータ素子としても注目されています。

ウラン系超伝導はトポロジカル超伝導の候補として注目され、その超伝導機構解明は物性物理学における最前線の課題となっています。そのような超伝導候補の一つが、ウランテルル化物(UTe2)です。2019年に米国の研究グループにより超伝導が発見されました。これまでUTe2の単結晶は、化学輸送法という方法で作られてきました。この方法では、単結晶の品質が問題となっていました。従来法では、単結晶にわずかなウラン元素欠損が残り、超伝導特性が影響を受けていたことが分かりました。

そこで私たちは、そのウラン元素欠損を取り除く新しい単結晶育成方法を考案しました。まず合成条件を単純化できるフラックス法を選びました。フラックス法とは結晶の育成方法の一つで、溶液から結晶を育成する手法です。水に溶かしたミョウバンや食塩の結晶育成が、その身近な例です。本研究では「水」の代わりに、塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)とを混ぜた「塩」を用いました。それぞれの塩の融点は約800 ℃と高いのですが、お互いを混ぜると、約650 ℃まで下がります。この「塩」と、UTe2原料であるウランやテルルをいろいろな比率で溶かして、高温950 ℃からゆっくりと冷やしました。これを溶融塩フラックス法といいます(図1)。様々な混合比で単結晶育成を試した結果、従来法では平均的に1.8 K程度であった超伝導転移温度が、2.1 Kとなる単結晶が安定して得られるようになりました。同時に単結晶品質の指標である残留抵抗率比も、当時の最高報告値88を大きく超えて1000という桁違いに大きな値に到達しました(図2)。このことは、これまで問題となっていたウラン欠損を限りなく取り除いたことを意味します。

超伝導の本質を調べるために単結晶の純良化は極めて重要で、溶融塩フラックス法は、その決定打となりました。本研究で考案した単結晶育成法は再現性が良く、原料混合比や溶融塩の量を同じにすれば、純良単結晶が安定して得られます。このことは、超伝導の本質に迫る実験研究を大きく後押しします。実際、私たちの純良UTe2単結晶を用いた様々な精密物性研究が進行中で、不純物や元素欠損によって隠されていたUTe2の超伝導特性が続々と明らかになってきています。

本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費挑戦的研究(萌芽)(JP20K20905)「FIB微細コイルによるトポロジカル相の表面状態検出」と原子力機構の萌芽研究開発制度の助成を受けて行われました。

(酒井 宏典)