図1 多核子移行反応と生成された原子核の識別
図2 カリホルニウム248(248Cf)の(a)γ線スペクトル及び(b)エネルギー準位
原子力発電の利用で生成される長寿命のマイナーアクチノイドを減容する核変換技術や、マイナーアクチノイドを燃焼させる次世代炉では、多くの種類のアクチノイド原子核が生成されます。これら技術を確立するには、これら原子核の構造を知ることが重要です。本研究では、これまで未測定であった多くのアクチノイド原子核の構造を一度に調べることのできる技術を開発しました。
様々なアクチノイドを研究するため、私たちは多核子移行反応に着目しました(図1)。標的に重イオンビームを照射すると、衝突する原子核間で中性子と陽子が様々なパターンで交換され、結果、標的核周りの多くの核種が生成され、構造を調べることができます。このためには、イベントごとに生成され、励起状態にある原子核(複合核)を分析することが必要です。私たちは、散乱粒子を検出、識別することで、同時に生成されたアクチノイド核種を特定しました。このために開発したのがシリコンΔE-E検出器です。図1のように、ΔE部とE部に付与されるエネルギーを測定することで、粒子識別ができます。複合核は、γ線を放出することで安定になりますが、このγ線を測定することで、原子核のエネルギー準位構造が分かります。この構造は、陽子や中性子の動きを反映したもの、あるいは原子核の回転など集団的な振る舞いを表しています。γ線はゲルマニウム線検出器で測定しました。
実験では、カリホルニウム249(249Cf、原子番号98の同位体)標的を酸素18(18O)ビームで照射することで、248Cfの構造を調べました。この結果、図2(b)のようなエネルギー準位を構築しました。このうち、励起エネルギーの0.9 MeVの所に、長い寿命の状態(200ナノ秒以上)があることを発見しました。普通の励起状態よりも20万倍を超える寿命です。長い寿命の原因は、外側の二つの核子(陽子または中性子)の軌道運動の向きが残りの核子と異なり、原子核の回転軸の方向がずれたためです。また、回転状態に由来する準位構造も観測でき、ここから原子核の変形度が決定できました。
本実験で図1のように多くの原子核が生成されており、現在、解析を進めています。また、さらに重いビームを照射することで、超重元素の構造研究も可能になります。超重元素のいくつかは、測定が困難なほど寿命が短いことが分かっています。しかし、低いエネルギーの長寿命な励起状態を作ることで、むしろ基底状態よりも長い寿命をとり、検出が容易になることが期待されています。
(Riccardo Orlandi)