図1 (a)米国高速実験炉EBR-Uの機器構成図と(b)3次元詳細解析モデル
図2 解析結果と試験結果の比較
カーボンニュートラル及びエネルギー安定供給等を目的とする脱炭素社会の実現に向け、革新炉の一つであるナトリウム冷却高速炉の開発を加速するため、シミュレーションを活用した研究開発基盤技術の整備を進めています。本研究では、スケールの異なる物理現象を、評価の目的に合った精度と計算負荷でモデル化して解析するため、プラント全系を1次元プラント動特性解析(1D)モデルで、多次元的な熱流動挙動が予想される領域を3次元詳細解析(3D)モデルで模擬し、1Dモデルと3Dモデルの相互作用を考慮した1D-3D連成解析手法の構築を行っています。一例として、米国高速実験炉EBR-Uで行われた試験を対象とした1D-3D連成解析結果を示します。
図1(a)にEBR-Uの1次系内の機器構成図を示します。炉心部で高温となった冷却材のナトリウムは、上部プレナム部を出た後、中間熱交換器(IHX)で2次系ナトリウムと熱交換を行い、低温になったナトリウムはコールドプール(CP)に流入します。その後、1次系ポンプによって炉心下部のプレナム部から炉心に戻ります。解析対象は、通常の運転状態から、原子炉は停止させずに2次系ポンプを停止し、炉心に入る温度が上昇して、炉心が径方向に膨張することで、燃料集合体間の間隔が広がり、自動的に炉心出力が低下する「フィードバック反応度」の効果を調べた試験です。この試験では、試験開始直後の高温ナトリウムがIHX出口からCPに流入し、CP内で上部に高温、下部に低温ナトリウムが分布する温度成層化現象が発生します。1Dコードでは、CPを一つの計算要素とするため、温度成層化ひいては炉心入口温度上昇の予測が困難でした。そこで、図1 (b)に示すように、CPを含む領域を3Dモデルとし、1Dコードと3Dコードを連成させる1D-3D連成解析手法を適用しました。
図2(a)及び(b)に1D-3D連成解析によるCP内の3次元詳細解析結果を示します。CP内の熱流動挙動を3Dコードで解くことにより温度成層化の存在を確認し、計測結果との比較からその妥当性を確認しました。また、図2(c)に1Dコードだけで解いた炉心入口温度の結果と1D-3D連成解析結果を比較して示します。1Dコードでは、温度成層化を考慮できないため、試験結果と差が生じます。一方、1D-3D連成解析では、CP内の温度成層化とポンプに吸い込まれるナトリウム温度を再現できたことで、炉心入口温度の上昇の様子を再現できるようになりました。
今後、炉心部の3次元核計算との連成や炉容器壁の構造健全性解析との連携などにより、プラント全体挙動を計算機上でまるごと解析できる仮想プラントを実現し、高速炉開発のイノベーションを達成できるよう整備を進めていきます。
(吉村 一夫)