4-3 MA核変換用窒化物燃料再処理におけるMA回収率の向上に向けて

−腐食性ガスを使わずに白金族化合物中のネプツニウムを塩化物にすることに成功−

図1 MA核変換用窒化物燃料サイクルの概要

図1 MA核変換用窒化物燃料サイクルの概要

使用済MA核変換用窒化物燃料の再処理によってMAを分離回収し、回収したMAを用いて製造した燃料を再びADS炉心に装荷します。

 

図2 使用済MA核変換用窒化物燃料の元素組成:(a)金属元素組成、(b)FP元素組成

図2 使用済MA核変換用窒化物燃料の元素組成:(a)金属元素組成、(b)FP元素組成

標準的なADS炉心において、800 MWtで600日間燃焼し、630日間冷却した使用済MA核変換用窒化物燃料(固体成分)中の原子数比を計算した結果*です。金属元素成分の約2%を占める白金族元素はMAと安定な化合物を生成することが予想されます。

 

図3 Np窒化物とPdの反応によって生成したNpPd3

図3 Np窒化物とPdの反応によって生成したNpPd3

 

図4 MA核変換用窒化物燃料中のMA-白金族化合物の生成及び生成した化合物の処理方法の概要

図4 MA核変換用窒化物燃料中のMA-白金族化合物の生成及び生成した化合物の処理方法の概要

 


私たちは、放射性廃棄物の減容化・有害度低減のために、使用済発電用原子炉燃料の再処理によって発生する高レベル放射性廃液中の元素を分離し、長半減期核種を核変換する分離変換技術の研究開発を進めています。加速器駆動システム(ADS)を用いたマイナーアクチノイド(MA)の核変換技術では、MAを高い濃度で含む核変換専用の窒化物燃料(MA核変換用窒化物燃料)を使用しますが、燃料安全性の観点から、炉心内で一度に核変換できるMAの割合は20%程度が限度とされています。そこで、より多くのMAを核変換するために、使用済MA核変換用窒化物燃料からMAを分離回収し、回収したMAを用いて製造した燃料をADS炉心に装荷して核変換することを繰り返す燃料サイクル技術の確立を目指しています(図1)。

図2に使用済MA核変換用窒化物燃料の元素組成の計算結果を示します。この使用済燃料中には、核変換によって生成した核分裂生成物(FP)を含むMA-FP化合物ができることが予想されます。燃料再処理における回収率を大きくするためには、安定なMA-FP化合物からもMAを回収することが必要です。私たちが研究開発を進めている乾式再処理法では、アルカリ金属塩化物からなる溶融塩浴中にMAを溶解して、分離回収を行います。この塩素化溶解工程においては、設備や装置の腐食の原因となる塩素ガス等の腐食性ガスを極力使用しないことを目指しています。

本研究では、MAの一つであるネプツニウム(Np)を用いて高温反応試験を行い、反応生成物を粉末X線回折法によって同定しました。この結果、Np窒化物とFPの一つで白金族元素に分類されるパラジウム(Pd)の1323 Kでの反応によってNpPd3が生成することを確認しました(図3)。また、NpPd3と塩素化剤である塩化カドミウム(CdCl2)の673 Kでの反応によってNp塩化物と副生成物であるPd-Cd合金が生成することも確認しました。

これらの結果は、MA核変換用窒化物燃料中にNpPd3のようなMA-白金族化合物が生成する可能性が高いこと、及び腐食性ガスを使わずに、この化合物中のMAを塩化物にできることを示しています。MAの塩化物は溶融塩浴中に容易に溶解してMA含有溶融塩浴が得られるため、これを乾式再処理プロセスに利用する方法を提案しています(図4)。今後は、この方法を取り入れた、MA回収率の高い乾式再処理技術の開発を進めていきます。

本研究は、文部科学省原子力システム研究開発事業「安全性・経済性向上を目指したMA核変換用窒化物燃料サイクルに関する研究開発」における成果を含みます。

(林 博和)

 

Tateno, H., Hayashi, H. et al., Material Balance Evaluation of Pyroprocessing for Minor Actinide Transmutation Nitride Fuel, Journal of Nuclear Science and Technology, vol.57, issue 3, 2020, p.224-235.