図1 対象地域、方法及び主要な結果
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後、海産物への放射性物質の移行が懸念されることから、海域では放射性セシウム(137Cs)の挙動を把握する「動態研究」が行われています。事故から12年が経過した現在でも、わずかな量の137Csが河川を介して陸域から海域へ輸送されています。特に沿岸では、海底土や河川から流入する土砂等で形成される濁った領域(高濁度層)が海底付近に存在しています。このような高濁度層中に含まれる137Csは海底に生息する小型生物やそれらを捕食する底生魚へ影響を与える可能性があり、その供給メカニズムの解明が求められています。また、高濁度層は波浪や流れによって容易に移動するため、放射性物質輸送において重要な役割を果たしていると考えられます。そのような河口域の高濁度層と河川からの137Csの流入量・流入時期との関係を把握することは、将来的な底生魚への影響を予測する上で重要な知見となります。そこで本研究では、高濁度層中の137Csに対する河川影響の実態把握を目的とし、沿岸域で調査を実施しました。
調査地点は、図1(a)に示すように、1F周辺の河川の中で流域面積の大きい請戸川河口域としました。図1(b)に示すような水質系(WQシステム)とセジメントトラップ系(STシステム)の二つの係留系を設置し、観測を行いました。STシステムには、セジメントトラップ(ST)という機器を組み込み、高濁度層を形成する粒子(沈降粒子)量を測定しました。また、WQシステムには、濁度と流速を測定する機器を組み込み、高濁度層の変動を捉えました。WQシステムで得られた流速と一般に公開されている波浪データから粒子移動の指標(せん断力)をそれぞれ計算しました。
沿岸における濁度の変動(沈降粒子量の変動)は、流速と波浪のせん断力(海底土の再懸濁)と河川流入(河川からの土砂等の懸濁物)の3要因で説明できると考え、全濁度に対する3要因の寄与割合を重回帰分析(複数の要因の寄与度合いを求める手法)で計算しました。
各要因の割合を用いて、沈降粒子量を区別すると、再懸濁の割合が、St.1で平均:79%、St.2で平均:83%となりました(図1(c))。そのため、高濁度層中に含まれる137Csを含む粒子は再懸濁によるものが支配的であり、河川流入で新たに供給される137Csの影響は小さいことが示されました。今後は、底生魚への137Cs移行を予測するための基礎データに貢献できるように、高濁度層中の沖合輸送量等を計算する予定です。
(御園生 敏治)