図1 EDZの発達状況と樹脂注入孔、岩石試料採取位置の関係
図2 樹脂注入後に取得した岩石試料中の割れ目の保持状況
図3 せん断変位、開口幅の計測の概要
図4 せん断変位と開口幅の関係
高レベル放射性廃棄物の地層処分場の建設にあたっては、立坑やアクセス坑道、処分坑道などの掘削に伴い、坑道周辺に割れ目が多く発達します。このような領域を掘削損傷領域(Excavation Damaged Zone, EDZ)と呼びます。廃棄体定置後に処分場を閉鎖した後は、廃棄体のまわりに設置する緩衝材に地下水が浸透し、膨潤することにより、EDZの割れ目に作用する圧力が変化し、割れ目にずれ(変位)が生じることが想定されます。処分場閉鎖後の長期にわたる廃棄体からの放射性核種の移行挙動を高い信頼性をもって評価するためには、緩衝材の膨潤がEDZの割れ目の長期的な水の通りやすさ(透水性)に及ぼす影響を評価する必要があります。
評価に際しては、割れ目を直接観察することにより、割れ目が変位することによる開口幅の変化に関する知見を得ることが望ましいですが、そのような研究事例はありませんでした。そこで、幌延深地層研究センターの深度350 m調査坑道のうち、試験坑道3を対象として、蛍光剤を添加した樹脂を坑道周辺に注入してEDZの割れ目の状態を保持した後に、注入領域周辺の岩石を採取し(図1)、坑道掘削による割れ目の発達状況を観察しました(図2)。坑道掘削に伴う割れ目の変位の計測にあたっては、図3(a)に示すような拡大写真を紫外線照射下で撮影し、割れ目表面をトレースしました。そして、割れ目の表面の形から、掘削前に割れ目がなかった状態(割れ目表面同士がもともと密着していた状態)を推定して、掘削によりどの程度の変位が生じたかを図3(b)に示すように計測しました。
計測の結果、坑道掘削により割れ目にせん断変位が発生しても、開口幅に大きな変化は生じないことが分かりました(図4)。このことから、処分場閉鎖後に想定される地下水位の回復により緩衝材に地下水が浸潤して膨潤して将来的にEDZの割れ目がずれたとしても、それが原因で透水性に大きな変化は生じないことが想定されます。本知見は、廃棄体からの放射性核種の移行挙動評価の信頼性向上や、処分坑道周辺が水みちにならないように設置する止水壁の設計等に役立つことが期待されます。
本研究は、京都大学との共同研究「幌延深地層研究センターにおける掘削損傷領域の可視化手法の検討」の成果の一部です。
(青柳 和平)