9-2 地下でのアクチニド核種移行への影響物質の把握

−花崗岩及び泥岩中地下水への微量元素添加試験−

図1 地下水の採水と試験方法の概念図

図1 地下水の採水と試験方法の概念図

ろ液中の溶存元素濃度は誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により測定しました。フィルタ上に捕集された微小な沈殿物は、2次イオン質量分析(SIMS)及びX線吸収微細構造(XAFS)により同定しました。Daは12Cの1/12の質量単位と定義され、10 kDa(10,000 Da)は、これより小さな質量の分子が通過できるフィルタサイズの指標になります。

 

図2 ろ液中の溶存微量元素の残存割合

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図2 ろ液中の溶存微量元素の残存割合

縦軸は各微量元素の添加時の濃度に対するろ液中の溶存元素濃度の割合を示しています。錯体とは、金属と非金属の原子が配位結合や水素結合することで形成した化合物の総称です。

 


我が国では高レベル放射性廃棄物を深度300 mより深い地層に埋設処分します。1000年を超える長期間経過後に放射性核種がゆっくりと地下水中に溶出し、様々な天然溶存物質との化学反応により放射性物質の移行挙動に影響が生じることが考えられます。地層処分システムの安全性を評価するためには、長期間にわたり放射能を持つアクチニドの深部地下水中での挙動を予測することが重要になります。アクチニドは、原子番号90から103までの14の放射性元素群であり、天然に存在するトリウム(Th)やウラン(U)の他に原子炉内で生成される元素が含まれます。

地下水の水質は岩盤の地質を反映し、地表部と地下深部でも水質は異なります。処分深度における我が国の地下水中溶存物質が放射性核種の移行挙動に与える影響を解明するため、本研究では日本を代表し、性質が大きく異なる2種類の岩盤中(結晶質岩と堆積岩)の地下水に対して、アクチニドの挙動を模擬するため微量元素(ランタン(La)、サマリウム(Sm)、ホルミニウム(Ho)といった希土類元素(REE)やU)を添加し、地下水中で生じ得る化学反応を調べました(図1)。結晶質岩及び堆積岩の地下水として旧瑞浪超深地層研究所及び幌延深地層研究センター地下施設から、地下水を採取しました(それぞれ、瑞浪地下水及び幌延地下水)。採取した地下水に微量元素試薬を少量添加し、ろ過したろ液とろ過フィルタに捕集された微小沈殿物についてそれぞれ化学分析を実施し(図1)、分析結果を熱力学解析から推定される瑞浪・幌延の両地下水試料中の溶存物質及び沈殿物と比較しました。

ろ液の水質分析結果を図2に示します。瑞浪地下水ではREEは炭酸錯体として溶存する一方で、水酸化物沈殿を形成することが分かりました。幌延地下水ではHoは炭酸錯体として溶存する一方でリン酸塩沈殿を形成し、LaとSmは主にリン酸塩沈殿を形成することが分かりました。Uは両地下水において炭酸錯体を形成することが分かりました。このことから、幌延地下水と同じ水質においては3価アクチニドの挙動は従来考えられていた水酸化物ではなくリン酸塩により規定される一方で、Uの挙動は炭酸錯体により規定されることが示唆されました。

地層処分の安全性をより現実的に評価するためには実際の深部地下水を用いた調査が必要であることが、本研究結果から示唆されます。

本研究は、東北大学との共同研究であり、日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)(JP19H02641)「深部地下水環境での長半減期核種の移行を支配する物質の解明」の助成を受けたものです。

(宮川 和也)