図1 ルミネッセンスのメカニズム
図2 古地温の復元方法
図3 ボーリングコアを対象とした古地温復元結果
地層処分において地形の侵食は、地表と処分場の距離や地下水流動特性の変化に影響を及ぼす可能性があるため、評価が必要な天然現象です。そのため東濃地科学センターでは、侵食評価技術の高度化を目的とし、自然放射線の作用によって鉱物内に生じる捕獲電子が熱や光刺激によって解放される際に発せられる微弱な光(ルミネッセンス、図1)を利用する光ルミネッセンス(OSL)熱年代法の研究開発を行ってきました。OSL熱年代法は鉱物のOSL信号の蓄積速度(捕獲電子の蓄積速度に比例)が周囲の放射線量率と温度に依存することを利用し、侵食作用による地下深部(高温度)から地表(低温度)までの鉱物の移動履歴(熱履歴)を推定する手法です。OSL熱年代法は適用温度が約30〜70 ℃(地下の場合、深度1〜2 km以浅の地温に相当)であり、多種ある熱年代法の中で最も低く、地層処分の対象深度(日本では0.3 km以深)スケールに適用可能な現状唯一の手法です。しかし、捕獲電子の蓄積は、数十万年程度で鉱物中の不純物等が埋め尽くされ、上限に至ってしまうことから、OSL熱年代法で侵食速度が求められるのは、OSL信号の蓄積が始まる深度1〜2 kmから地表まで数十万年以内に到達できるような侵食速度の非常に速い地域に限られていました。
そこで、東濃地科学センターでは侵食速度が遅い地域に対するOSL熱年代法の利用方法を検討しました。試料には、侵食が緩慢である岐阜県東濃地域で掘削した全長約1.3 kmの大深度ボーリングコア中のカリ長石という鉱物を用いました。本研究では、OSL信号の蓄積上限値が周囲の温度に依存することを利用し、上限に達していると考えられるOSL信号から過去の地温(古地温)を逆算する方法を適用しました(図2)。この手法を大深度ボーリングコアに適用することで、地中の古地温の分布、すなわち古地温構造を復元することができます。そして、復元した古地温構造と現在の地温構造を比較することで、過去数十万年の間の地温の安定さ、すなわち侵食の緩慢さを評価することができます。この手法で解析を行った結果、深度約1 km以深(地温約40 ℃以上)で古地温と現在地温は一致し、東濃地域の侵食が緩慢であることと整合しました(図3)。これにより、侵食速度が遅い地域に対しても、ボーリングコアを使って古地温を求めることで、OSL熱年代法の有用性を示すことができました。
本成果によって、侵食速度に関わらずOSL熱年代法を適用できる可能性を示すことができました。本手法は、地質条件を問わず侵食速度評価が必要となる地層処分事業に活かせるものと考えています。
本研究は経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成30〜令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部です。
(小形 学)