9-4 加速器質量分析装置 超小型化への挑戦

−結晶表面を用いて原子・分子をふるい分ける−

図1 東濃地科学センターにあるAMSの大きさ比較

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図1 東濃地科学センターにあるAMSの大きさ比較

開発中の超小型AMSは従来の50分の1サイズ、加速電圧は従来の100分の1、放射線管理区域を必要としません。

 

図2 結晶表面を用いたフィルター

図2 結晶表面を用いたフィルター

従来法はガスを用いて妨害分子(同重分子)を壊していますが、小型化のために加速電圧を低くしていくと、ガスとの衝突で大角散乱が起きてしまい、分析能力が低下してしまいます。それに対して、結晶表面を用いれば、大角散乱させずに、妨害分子を壊すことができます。

 


世界的に脱炭素に向けた動きは加速しており、日本ではレジ袋の有料化が象徴的ですが、欧州では、数年後に輸出入品に対する炭素税導入が予定されており、バイオ燃料やプラスチックのバイオマス素材の使用割合(バイオベース度)の認証が必要とされます。バイオベース度は考古学や地質学に用いられている加速器質量分析装置(AMS)を用いて知ることができます。炭素の放射性同位元素である、炭素14(14C)は空気中の全炭素量に対して一兆分の一だけ存在していて、生きている動植物の体内にも同じ割合で存在しています。一方、化石燃料には14Cが含まれていません。したがって、14C割合を測定すればバイオベース度を知ることができます。しかし、AMSは国際標準化機構(ISO)で定めたバイオベース度を測る唯一の測定法にも関わらず、国内に15基しかなく、外部者が利用することは難しいのが現状です。その理由は、AMSの多くは大きさが10メートル以上と大型な上、放射線管理区域を設けて管理しなければならないからです(図1)。そのため、小型化し低コストに導入できれば、一般産業用に普及し、迅速な認証に貢献できると考えています。他にも、医療分野では14Cで標識した薬を使った生体内の薬物動態の分析、考古学や地質学では調査現場での分析といったことができるようになります。

AMSは分子をふるい分ける“フィルター機能”として加速器を備えた質量分析装置です。AMSでは質量数が14の炭素を測るために同じ質量数を持つ分子(炭素13、炭素12の水素化物である13CH、12CH2)を加速してガスと衝突させることで分子を壊し、14Cだけを透過させることができるようになっています。放射線管理区域不要の小型AMSは2000年代から開発が進みましたが、従来の“衝突によるフィルター”(ガスストリッパー法)では大角散乱が障害となり小型化の限界に至っています。

このため私たちは、ガスストリッパー法に代わる結晶表面ストリッパー法という結晶表面の電子や原子との相互作用を利用した全く新しいフィルターを着想し、国際特許を取得しました(図2)。このアイデアによって、分析能力を犠牲にすることなく従来の50分の1のサイズ(2メートル四方)まで小型化し、加速電圧も従来の100分の1(四万ボルト)にまで下げることが可能になります。現在は、測定に最適な条件の探索、表面散乱過程のモデル構築など原理実証に向けた取組みを行っています。

(神野 智史)