図1 HLWとTRU廃棄物の併置処分を想定した場合に懸念される事象の例(アンモニウムイオン(NH4+)による影響)
図2 NH4型及びK型モンモリロナイトの層間陽イオンの振る舞い
使用済核燃料の再処理等で発生するTRU廃棄物は、高レベル放射性廃棄物(HLW)との併置処分が検討されています。これらの廃棄物は互いの性質が異なるため、相互に影響を与える可能性があります。特に、TRU廃棄物の中には多量に硝酸塩を含むものが存在し、その廃棄物から溶出したNO3−が岩盤中を移行する過程で、NH4+などに化学形が変化すると考えられます(図1)。
HLWの地層処分においては、廃棄体を金属容器(オーバーパック)に密封し、その外側にベントナイトを主成分とした緩衝材を施すことが検討されています。緩衝材の特性は、含まれているモンモリロナイトと呼ばれる層状粘土鉱物に依存し、高い膨潤性(水を吸って膨らむ性質)による岩盤亀裂の止水機能や、低透水性・収着性による核種の移行を遅延させる機能などが期待されています。このような緩衝材の特性は、モンモリロナイト層間の陽イオンの種類によって変化します。
TRU廃棄物とHLWの併置処分を想定した場合、図1に示すようにTRU廃棄物由来のNO3−の化学形がNH4+に変化してHLWの緩衝材に到達した場合には、モンモリロナイトの層間陽イオンがNH4型化する可能性があります。しかしながらNH4型化したモンモリロナイトの特性については、これまでほとんど調べられていませんでした。そこで本研究では、NH4型化したモンモリロナイトの膨潤性について、相対湿度を変化させながらX線回折(XRD)分析を行うことで層間距離の変化を測定しました。その際、既によく調べられており、NH4型と似た振る舞いが予想されるカリウム(K)型モンモリロナイトを比較対象としました。また、層間陽イオンの違いにより膨潤性の違いが生じるメカニズムを考察するため、分子動力学計算を用いて分子レベルでの層間陽イオンの挙動について検討しました。
相対湿度を変化させたXRD分析の結果、図2(a)に示すようにNH4型ではK型よりも乾燥状態での層間距離が大きく、より低い相対湿度でモンモリロナイトが膨潤することが分かりました。
また、図2(b)に示す分子動力学計算の結果から、K型ではK+とモンモリロナイトとの間に静電気的な引力が生じており、NH4型ではこの静電気的引力に加えて、NH4+分子とモンモリロナイト表面の酸素原子が水素結合を生じていることが示唆されました。K+はモンモリロナイト表面の酸素原子による構造上の窪みにはまり込むことで層間距離が小さくなることが知られていますが、NH4+は酸素原子との水素結合によりこの窪みにはまることができず、NH4型では水を含まない状態でもK型より大きな層間距離が保持されると考えられます。その結果、層間に水分子が侵入しやすく、より膨潤しやすいことが推察されました。
上述した成果を踏まえると、NH4+を含む地下水が緩衝材と接触し、モンモリロナイトのNH4型化が生じても、膨潤性への影響は、K型化による膨潤性の低下よりも小さいと考えられます。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成25〜29年度 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(処分システム評価確証技術開発)」の成果の一部であり、北海道大学との共同研究として実施されました。
(川喜田 竜平)