図1 拡散試験の概略図
図2 Na型及びCa型ベントナイト(密度0.8 Mg/m3)中の125I−のDeの実測値と拡散モデルによる評価
高レベル放射性廃棄物の地層処分では、廃棄物の周囲に、緩衝材として圧縮されたNa型ベントナイトが設置されます。Na型ベントナイトは、地下水と接触すると膨潤し、微細な間隙構造を形成するため、放射性核種の移行を抑制することが期待されます。一方、処分場の施工等に使用されるセメント材料から地下水中に溶出したCa2+により、ベントナイト中のNa+が置換され、ベントナイトがCa型化する可能性があります。Ca型ベントナイトは膨潤性が乏しいため間隙サイズが大きく、核種移行抑制機能の低下が懸念されます。
本研究では、Na型とCa型ベントナイト中での放射性ヨウ素(125I−)の拡散試験を実施し(図1)、その移行の速さの指標である実効拡散係数(De)を取得しました。Na型とCa型ベントナイト中でのDeを比較することで、ベントナイトがCa型化した場合の核種移行へ及ぼす影響を調べました。また、間隙水中のCa2+またはNa+濃度のイオン強度(濃度に比例)がDeに及ぼす影響を調べ、その変化の要因を検討することで、多様な地下水の塩濃度条件に適用可能なDeの予測モデルの開発を試みました。
拡散試験により取得したNa型とCa型ベントナイトの125I−のDeを比較した図を示します(図2)。図に示すように、Ca型ベントナイトの125I−のDe(図2●)は、Na型のDe(図2▲)より高い値が得られ、ベントナイトがCa型化することにより125I−の移行が促進されることが分かりました。次に、Deとイオン強度の関係に着目すると、Na型ベントナイトでは、イオン強度の増加に伴い125I−のDeは増加する傾向を示しました(図2▲)。これに対し、Ca型ベントナイトでは、125I−のDeがイオン強度に対してほとんど変化せず(図2●)、Deにイオン強度の影響がほとんどないことが分かりました。
これらの結果は、Na型とCa型ベントナイトの間隙サイズの相違とベントナイト表面の負電荷により形成される電気二重層(EDL)で説明されます。陰イオンである125I−は、EDLから電気的反発を受けますが、イオン強度が増加すると、EDLの厚さが減少して移行可能な間隙の割合が増加し、Deが上昇します。Ca型ベントナイトでは、サイズの大きな間隙が主な移行経路となるため、間隙全体に対するEDLの割合が少なくなり、Deに及ぼす影響がNa型より小さくなったと考えられます。
Ca型ベントナイトの特徴であるサイズの大きな間隙とEDLを考慮した拡散モデルを構築し、125I−のDeを評価しました(図2実線)。図に示すように、モデルにより実験値をおおむね再現できたことから、Deの予測が可能であり、特にベントナイトのCa型化によるDeの変化を予測する上での有用性が示されました。地層処分の安全評価において、Deは核種の移行を予測するための重要なパラメータであり、本研究の結果はDeの設定精度の向上に寄与する成果です。
(深津 勇太)